ABOUT

About

The Philosophy of Yohaku

港区白金台のマンションに、一人で住んでいる。データ分析の会社を経営し、いくつかの企業の顧問を務め、ひとりの歌い手の仕事を手伝い、いくつかの投資先を持っている。名刺は事業の数だけあるが、やっていることは一つだ。あらゆる対象を、変数とパターンに置き換えること。

それは職業であると同時に、いつからか体質になった。市場も、組織も、他人の言葉も、自分の疲労さえも、気がつけば構造に還元している。有能さの証明と引き換えに、意味づけを保留するという能力を、私はどこかで手放したらしい。

旅館だけは、例外にすると決めている。事業計画に載せない。指標を置かない。改善案を考えない。なぜそう決めたのかを説明する言葉を、まだ持っていない。持たないままにしている、のかもしれない。

出張の合間に、行き先を毎回変えながら、宿に泊まりに行く。表向きは息抜きと呼んでいる。湯に沈み、飯を食い、早く眠る。それだけのことが、私の予定表の中で唯一、目的を持たない時間として残っている。

The-Yohakuは、その道中の記録である。ただし、私の話ではない。宿ですれ違った人たちの話だ。効率の言葉に疲れた人間は、私のほかにも、どの宿にもいた。彼らの一晩を、彼らの声のままここに集めている。ここに載せる宿は、静けさに根拠のある場所に限る。誇張はしない。数字で書けることは数字で書き、書けないことは、書けないまま置いておく。

あなたがいま、終わらない通知と数字の重圧の中にいるのなら。この記録はたぶん、あなたのための余白である。

Editor 黒瀬慧