人物録
十二人の語り手と、一人の編者。
それぞれの「私」が、実在の宿に泊まって書く。
語り手たち
12人- 楓 仕事を機械に明け渡したあと、何が自分に残るか 最新作『二通りに書いてあった』——亀山温泉ホテルにて 宿の選び方 近いことと、安いこと。その二つを満たしたうえで、揃っていないものが残してある宿を選ぶ。 「湯が、一晩じゅう落ちていた。私が見ているあいだも、寝ているあいだも、同じ量が落ちていた。」 年譜と、宿の取り方を見る →
かえで - 悠真 他人の物語を燃料にして、自分の予定表の空白とどう向き合うか 最新作『当落なし』——塔ノ沢 一の湯本館にて 宿の選び方 現場との距離で決まる。遠征の行き帰りに寄れるかどうかが、いちばん大きい。 「窓の無い部屋で、双眼鏡を持っている。」 年譜と、宿の取り方を見る →
ゆうま - 志乃 評価の圏外で、自分の容量に合った暮らしを決めること 最新作『一本だけ、一人と書いてある』——はなれ宿 善積にて 宿の選び方 余白を見る。詰めすぎていない宿。何を置いていないかで決める。 「この一本だけ、料理より先に人数が入っている。」 年譜と、宿の取り方を見る →
しの - 克彦 成果の物差しを失った人間は、何を「大漁」と呼べばいいのか 最新作『一つ増える』——草津温泉 奈良屋にて 宿の選び方 段取りの決まっている宿を選ぶ。こちらが決める場面が少ないほどよい。 「減るものだと思って見ていたので、増えた一件を、私はどう扱えばよいのか分からなかった。」 年譜と、宿の取り方を見る →
かつひこ - 美咲 罪悪感ごと荷物を持ったまま、それでも休むこと 最新作『狭いほうが、高い』——谷地温泉にて 宿の選び方 帰れる距離かどうか。着信が入ったとき何時間で戻れるかを、湯のことより先に調べる。 「預けた日の数だけ、私も泊まっている。それは、引き算ではない。」 年譜と、宿の取り方を見る →
みさき - 蓮 結果の出ない日々を、どういう制度で書き続けるか 最新作『名前の半分』——土湯温泉 ニュー扇屋 源泉湯庵にて 宿の選び方 素泊まりの下限で決めている。日払いなので、増やした日数だけ一泊が増える。距離では止まらない。 「名前の後ろ半分は、僕の予約には付いてこない。」 年譜と、宿の取り方を見る →
れん - 千鶴 客を情報ではなく、顔で記憶する技術 最新作『十円で、七、八分』——千二百年の湯めぐり 大沢温泉 賢治ゆかりの自炊部「湯治屋」にて 宿の選び方 何時の客を受けると決めた宿か。それは、お品書きとプランの名前のほうに書いてございます。うちの刻限と引き比べて、読みます。 「湯より先に、廊下の音を聞いております。」 年譜と、宿の取り方を見る →
ちづる - 修一 終わりのある仕事の豊かさ。毎日新しく終わること 最新作『おまかせ』——奥道後 壱湯の守にて 宿の選び方 便の本数で決まる。週に三往復しかない宿なら、その三往復のどれかに日を合わせる。 「その下に、名前はまだ一つも無い。」 年譜と、宿の取り方を見る →
しゅういち - 大輔 計測をやめられない人間の、漸進的な手放し方 最新作『勧めない道』——指宿ロイヤルホテルにて 宿の選び方 所要時間も湯温も、数字で出てくる。数字で選ぼうとして、途中でやめる。 「書いていないと、決められない。」 年譜と、宿の取り方を見る →
だいすけ - 有希 選ばなかった人生を説明しない、静かな肯定 最新作『丸をつける』——湯元 榊原舘にて 宿の選び方 選ぶ基準が、宿の側に無い。遠さ、近さ、空いている平日、母の丸印。 「理由は書かれていない。並べただけで、千年が経っている。」 年譜と、宿の取り方を見る →
ゆき - 奈緒 走った街を一つも憶えていない働き方から、どう降りずに離れるか 最新作『七百八十円』——源蔵の湯 鳴子観光ホテルにて 宿の選び方 稼働を空けた日数だけ行ける。坂と段数は、着く前に数えておく。 「雪の日は、単価が上がる。あたしの仕事では、雪は金になる。」 年譜と、宿の取り方を見る →
なお - 沙織 誰にも咎められていないのに、自分で自分を採点する声から降りられるか 最新作『数えずに済む』——越前あわら温泉 つるやにて 宿の選び方 一泊は、延長保育の何日ぶんか。それで決める。 「電話をかけようとして、番号を出したところで止めた。止めたまま、画面が暗くなるのを待った。」 年譜と、宿の取り方を見る →
さおり
