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括弧
福島の宿を見ていた。
宿の名前が、括弧の中まで長かった。八つの湯巡りと郷土料理の宿、と書いてある。
一名にすると、プランが十四件出た。二名だと二十二件になる。並べ替えて、いちばん安いのを見ると、食事の付かないものだった。一万二千百円。夕食の付くほうは、そこから八千八百円上がる。
名前の後ろ半分は、僕の予約には付いてこない。
こぢんまり
その一万二千百円が出る部屋には、名前が付いていた。こぢんまり六から八畳の和室、とある。
安い、とは書いていない。こぢんまり、と書いてある。書いた人がいて、選んだ語がそれだった、ということだ。
日払いの現場は四日のままで、四日ぶんのうち一日と少しが、この一泊になる。増やしたぶんの一日は、去年までは無かった一日である。無かった一日で泊まっているので、勘定の上では損をしていない。勘定の上では、と書いたところで、ほかにどの上があるのかが分からなくなった。
夕食が付かないので、福島の駅でパンと蜜柑を買った。宿の周りに夜あいている店があるかどうかは、調べていない。調べると、調べたぶんだけ期待する。
三時間
宿は、東京駅からの全体を三時間と書いていた。
新幹線で福島まで行き、土湯温泉行きのバスに乗る。五十分と書いてあった。窓の外に川が出て、途中から見えなくなった。橋を渡って、と書いてあった道を、たぶんバスも渡った。
バスが坂を上がるあいだ、山の色を書くための語を探した。三つ思いついて、三つとも古い言い方だった。

前に高速バスで十二時間かけて着いた宿の素泊まりが一万千四百九十五円で、三時間で着くここが一万二千百円だった。六百五円の差である。時間のほうは、四倍ある。
予約の要る風呂
展望露天の貸切は要予約です、と欄に書いてあった。

頼んでおいた時刻を、帳場で渡された。渡された時刻は、僕には動かせない。制度のほうは、いつでも改定できる。一行書けたら湯に入る、と決めたのは僕なので、破っても改定しても、誰にも知られない。
制度は、湯に入る時刻を僕が決めるという形をしている。今日は、時刻のほうが先にあった。
廊下の椅子に、客がひとり座っていた。腕時計を見て、それからロビーの時計を見て、また腕時計に戻した。二つの時計を往復してから、立って湯のほうへ行った。行くまで、僕はそこにいた。
渡された時刻に、扉を開けた。湯は熱くも温くもなく、入っているあいだ、僕は何も思いつかなかった。何も思いつかない時間に値段が付いているのは、素泊まりの一万二千百円のなかでは、どのあたりに入るのだろうかと考えた。考えているうちに、上がる時刻になった。
締切
湯から上がって、部屋でノートを開いた。
制度の頁は飛ばして、後ろの白いところに、次の公募の締切だけを書いた。十二月十日。僕が決めた日ではない。

二月末まで、と書いたときは、書いた僕がその日を動かせた。この日付は、僕が動かしても動かない。
日付のうしろは、行がまだ空いている。
