宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 069

十二時間

結果の出ない日々を、どういう制度で書き続けるか

宿を転々としながら小説を書いている。結果はまだ何も出ていない。書けない日の自分をどう扱うか、その決まりを自分で組み立てている途中で、まだ途中だ。

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二月末

ノートに「二月末まで」と書いたのは、十二月だった。

四文字である。書いてしまえば四文字で、書くまでが長かった。

その二月末が来た。

二月末に何をするかは、決めていなかった。決めていないまま近づいてきて、近づくにつれて、決めていないことのほうが形を持ちはじめた。

十月に出した原稿の結果は、三月に出る。二月末は、その前日までのことだ。

十二時間

鳥取の宿を見ていた。

一名にすると、部屋が二つ、プランが二つ出た。素泊まりと、朝食だけのもの。それだけである。

夕食の付くものは、一人だと出ない。

朝食だけのプランの名前に、旅館での夕食は不要、と書いてあった。その一行を、僕は三回読んだ。

秩父のノートに、二食付きを選ぶ、と書いたのは去年の夏だ。あれは条件を揃えるための項目だった。ここでは、揃えようがない。

案内の下のほうに、行き方が並んでいた。大阪から四時間。岡山から三時間。広島から四時間。

東京から、十二時間。

高速バスである。乗り換えなしで、宿まで行く。

十二時間を、僕はしばらく見ていた。

画像はイメージです

乗る

乗ったのは夜で、降りたのは朝だった。

途中のことは、あまり書けない。書けないというのは、覚えていないのではなく、区切りがないのだ。休憩で止まるたびに外へ出て、自販機の前に立って、買わずに戻った。三回そうした。

窓は暗い。暗い窓には自分が映る。映っているものを見るのは、夜のバスでは避けられない。

二時ごろ、ノートを開いた。

膝の上で、ペンを持った。バスは揺れる。揺れる字は、あとで読めないことがある。

一行、書いた。

制度は、一行書けたら湯に入る、である。四版目まで直して、去年の春に直すのをやめた。四版目の「一行」は緩めてあって、半行でも一行と数えていい。

いま僕は、湯のないところで一行を書いた。

制度は、そのときのことを決めていない。書いてから湯までのあいだが何時間まで許されるか、どこにも書いていない。

書き足さなかった。ノートを閉じて、鞄に入れた。

六時間

朝に着いた。

宿の前でバスを降りて、時計を見た。部屋に入れるのは十五時からである。

十二時間かけて着いて、部屋に入れるまでに、まだ六時間ある。

荷物は預かってもらえた。あとは、外にいることになる。

画像はイメージです

川沿いを歩いた。二月末の川は水が少なくて、石が乾いている。橋を渡って、渡ったところで戻った。戻る理由はなかったが、進む理由もなかった。

途中の店の軒先に、湯が引いてあった。屋根の下に木の枠があって、そこに溜まっている。手を入れた。熱い。

そこに男が一人いた。手を入れずに、湯気の立ち方を見ていた。しばらくして、手を入れた。すぐ抜いた。熱かったのだと思う。抜いてから、もう一度入れて、今度は抜かなかった。

僕はその二回目を見ていた。同じ湯で、同じ人が、二回目には抜かない。

順番

十五時に部屋へ入って、それから湯へ行った。

バスの中で書いた一行から、十三時間が経っている。

十三時間空けて湯に入るのは、制度を守っているのか、いないのか。僕は湯の中でそれを考えて、どちらとも決めなかった。

決めなかったというのは、決めるつもりが起きなかった、という意味だ。前は決めていた。決めて、版を増やしていた。

夕食はない。プランに付いていない。

外に出て、開いている店を探した。歩いて七分のところに一軒あった。名前は見た。忘れた。食べたものは、温かかった。

三月

朝食は付けていた。朝食のほうを選んだ理由は、二百円しか違わなかったからではない。三千円ちがう。それでも朝のほうを選んだ。

宿を出て、倉吉の駅まで送ってもらった。帰りは鉄道にした。十二時間は、片道でいい。

二月末は、その日で終わった。

ノートの制度の頁には、何も書き足していない。次の期限も切っていない。

三月に結果が出る。それまでの日数を、僕は数えていない。数えていないと書いておくと、数えていることになる気がして、ここまで書いて少し迷った。

日払いの現場を、三日から四日に増やした。増やしたぶんで、一泊がもう一回できる。

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Field Notes

三朝薬師の湯 万翆楼

Overview

鳥取県
Region
鳥取県東伯郡三朝町山田(三朝温泉)
Access
JR倉吉駅から無料送迎(要予約・14:20/15:30/16:20/17:45の全4便)、またはバス・タクシー。倉吉駅へは大阪・名古屋から新幹線と智頭急行、岡山から伯備線・山陰本線。高速バスは東京から約12時間、大阪から約4時間、広島から約4時間、岡山から約3時間
Price
予約サイトで確かめた一万円台前半〜(1名1室・素泊まり) 公開の情報から中価格帯(Reluxの1名1室で一万円台前半〜が素泊まり、一万円台半ば が朝食付き)

Facility

Room
大人1名・1室の検索で部屋2件・プラン2件(2名の検索では部屋8件・プラン11件)。1名で出るのは素泊まりと朝食付きの2件だけ
Meal
1名では夕食の付くプランが表示されない。素泊まりか、朝食付きのどちらか

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 湯治場の宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(1名で部屋2件・プラン2件が表示される)
  • 1泊を1万円台前半に収めたい一人客
  • 夕食が要らない一人客

向いていない人間

  • 夕食を宿でとりたい一人客(1名では夕食の付くプランが表示されない)
  • 移動を短くしたい人(高速バスなら東京から約12時間)
  • 到着の時刻を自由に決めたい人(送迎は要予約で一日4便)

予約前の注意事項

大人1名・1室で表示されるプランは、素泊まりと朝食付きの2件だけ。夕食の付くプランは一人では出ない(2名なら11件)。夕食を宿でとるつもりなら、予約の前に宿へ確かめること。JR倉吉駅からの無料送迎は要予約で、14:20・15:30・16:20・17:45の全4便。チェックインは15:00からで、高速バスで朝に着く場合は入るまでに時間が空く。

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