宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 068

押さえない

他人の物語を燃料にして、自分の予定表の空白とどう向き合うか

予定表が埋まっているうちは、何も考えなくていい。遠征と配信で週末は先まで塞がっている。空白があると、もったいない、と思う。その「もったいない」が何を指しているのかは、まだ考えないことにしている。

悠真という語り手について →

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一行

あの一行から、三度続いた。

俺が写真を送って、一行が返る。しばらく置いて、また送る。また一行。それだけだ。班のグルチャではなく、その人だけに送っている。

続いているのはいい。よくないのは、送る前の時間だ。

写真を三枚撮る。三枚を並べて、一枚選ぶ。選ぶのに、いまは十分かかる。前は撮ってすぐ送った。

十分かけて選んだ一枚と、すぐ送った一枚の違いを、向こうは知らない。知らないほうがいい。知らないほうがいいと思っている時点で、これはもう作業だ。

グルチャは二十三人のまま止まっている。五日が、二十日になった。

数えるのは、やめていない。

二つ

二月。遠征の予定はない。

予定がないと、休みの日の形が決まらない。決まらないので、宿を取ることにした。

宮城にした。理由は薄い。仙台で降りたことが、これまであったかどうか、思い出せなかったからだ。

去年の十二月に、グルチャを遡って、行ったはずなのに思い出せない現場があると気づいた。あれ以来、思い出せないという状態が、前より気になる。

蔵王のふもとの温泉に、一軒あった。一名にすると、部屋が一件だけ出た。

その下の注意書きで、手が止まった。

一名様による異なるプランの同時予約は、原則として承っておりません。

俺はいつも二つ押さえる。開演の時刻が読めないとき、終演からの足が読めないとき、二つ取って、後で片方を消す。消すのはこちらの都合で、消せることを前提に取っている。

一人だと、それができない。

画像はイメージです

もう一つ書いてあった。部屋の種類と、食事をする場所は、人数に応じて宿が決める。

一人で行くと、俺は何も決めない。

三十三番

新幹線で仙台まで行った。

駅前の三十三番のバス停から、高速バスに乗る。三十三番を探すのに、少しかかった。番号がついているのに、番号の順には並んでいない。

バスは市街を出て、山のほうへ入った。二月の田は雪の下で、畦の線だけが浮いている。

遠刈田温泉で降りた。降りたのは俺を入れて四人だった。歩いて三分。

おまかせ

通された部屋を、俺は選んでいない。

食事の場所も、着いたときに言われた。時刻も言われた。どちらも、こちらから聞く前に決まっていた。

決まっているというのは、比べる相手がないということだ。

俺は普段、何かを取るとき、必ずもう一つ見る。座席なら別のブロック、宿なら別の一軒。見てから決める。決めたあとも、消したほうを覚えている。

今日は、消したほうがない。

画像はイメージです

湯に入った。窓の外に山があって、雪が乗っている。稜線が、思っていたより長い。

夕食のとき、離れた席に男が一人いた。膳が来る前から座っていて、来てからもすぐには箸を取らなかった。並んでいるものを、端から順に見ていた。見終わってから、いちばん手前を取った。

順に見て、手前を取るのなら、見なくてもいい。見なくてもいいことを、その人は見ていた。

一枚

朝、外に出た。

蔵王が見えた。山の上のほうは白くて、下のほうは木の色をしている。境目が、思っていたよりくっきりしている。

写真を撮った。

三枚撮って一枚選ぶ、をやろうとした。やろうとして、二枚目でやめた。

山は一つしかない。角度を変えても、同じ山が写る。並べて選ぶ意味が、ここにはない。

一枚目を送った。文面は打たなかった。前と同じだ。

画像はイメージです

時間

帰りのバスで、返信を待った。

待つ、というのは、画面を伏せて置いて、しばらくしてから返すことだ。返すたびに、前に見たときから何分経ったかが分かる。

七分。十二分。九分。

そこで気づいた。

グルチャが止まったときは、五日で数えた。次は二十日になった。単位は日だった。

いまは時間で数えている。分で数えている。

単位が、小さくなった。

返信は、仙台に着く前に来た。一行だった。読んだ。読んでから、次に送るまでを、俺はもう数えはじめている。

班は抜けていない。次の遠征の予定は、まだ入っていない。

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Field Notes

かっぱの宿 旅館 三治郎

Overview

宮城県
Region
宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉(遠刈田温泉)
Access
仙台駅前33番バス停から宮城交通の高速バス(仙台蔵王線)で、バス停「遠刈田温泉」下車、徒歩3分。車は東京方面から白石IC経由で約20分、仙台方面から村田IC経由で約20分
Price
予約サイトで確かめた二万円台前半〜(1名1室・条件不明) 公開の情報から中〜高価格帯(Reluxの1名1室で2万円台前半から。素泊まりでこの水準で、食事付きは2万円台後半に上がる)

Facility

Room
大人1名・1室の検索で部屋1件・プラン4件(2名の検索では部屋5件・プラン7件)。1名で出る部屋は1件だけ
Meal
素泊まり・朝食付き・夕食付き・二食付きが1名でも選べる。予約の段階で選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 山の宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(1名で部屋1件・プラン4件が表示される)
  • 食事の有無を一人でも選びたい人(素泊まりから二食付きまで1名で出る)
  • 決めるのが負担になっている一人客(部屋の種類と食事の場所は宿が決める)

向いていない人間

  • 予定を複数押さえてから決めたい人(一人で違うプランを同時に押さえることは断られている)
  • 部屋を選びたい一人客(1名で出る部屋は1件のみ。2名なら5件)
  • 1泊を2万円未満に収めたい人(1名は素泊まりでも2万円台前半から)

予約前の注意事項

宿の注意書きに「一名様による異なるプランの同時予約は、原則として承っておりません」とある。一人で二つ押さえて後から片方を消す取り方はできない。また「お部屋の種類やお食事の場所は、ご利用人数に応じて当館にて調整させていただきます」とあり、一人で取ると部屋の種類と食事の場所は宿が決める。1名で出る部屋は1件で、その1件が埋まればその日は取れない。宮城県宿泊税が2026年1月13日から課され、宿泊料金が1人あたり6,000円(税抜)以上の場合、1人1泊につき300円が別途かかる。

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