宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 067

百五十四メートル

走った街を一つも憶えていない働き方から、どう降りずに離れるか

自転車で街を走って生きている。先週の走行距離はアプリが憶えているが、通った道は一つも憶えていない。店の名前ではなく、番地と入口の形で街を憶える癖がついた。休む日を自分で決められる働き方のはずが、決めているのは単価と天気だと、うすうす気づいている。

奈緒という語り手について →

本記事はアフィリエイト広告(Expedia・Relux)を利用しています。

三階までなら、段を数えている。

数えようとして数えているのではない。上がっているうちに、数が残る。十七段の建物と、十八段の建物がある。同じ三階でも違う。下の階の天井が高いと、段が一つ増える。

二月に入って、時間内に着いた割合が九十四から動かなくなった。九十七に戻すには、遅れない日を積むしかない。積むには走るしかない。走ると、脚が減る。

減る、というのは正確ではない。使ったぶんが、翌日に残らない。

その週の休みに、遠いほうを選んだ。

千葉は前に行った。近いと、帰りが早い。帰りが早いと、次の日の朝が普通に来る。

和歌山の、紀伊半島の先のほうに一軒あった。一泊で、一万二千円台だった。

一名にして検索した。部屋が二十三件出た。二名にしても二十三件だった。同じである。

これまで見てきた宿は、一名にすると数が減った。減らないのは、初めてだった。

新幹線と特急を乗り継いだ。朝に出て、着いたのは午後だった。

紀伊勝浦の駅から、歩いて六分。桟橋があった。

宿へは、そこから船で渡る。バスもあると書いてあったが、船が停まっていたので、船に乗った。

画像はイメージです

湾の中を、五分ほど。波はない。船が進んだぶんだけ、水が後ろへ寄れていく。

岬に建物が見えた。大きい。山の上にも建物があって、下の建物と何かでつながっている。斜めの、長い管のようなものだった。

百五十四メートル

船の上で、宿の頁をもう一度開いた。

本館と、山の上の館を、エスカレーターがつないでいると書いてある。全長、百五十四メートル。

百五十四メートル。あたしは、その数字を三回読んだ。

配達でいちばん長い階段は、七階建ての非常階段だった。あれは、たぶん三十メートルない。

乗った。

斜面をまっすぐ上がっていく。両側は壁で、途中に平らなところがあって、そこで乗り継ぐ形になっていた。

あたしは、最初の一本で歩きかけた。

エスカレーターでは歩く。配達では、そのほうが速い。左を空けて、右を上がる。手すりは持たない。持つと、片手が塞がる。

歩きかけて、足を戻した。前に人がいなかった。抜く相手がいないなら、歩く用がない。

五分

立っているだけで、上がっていく。

壁が下へ流れる。膝は動かない。ふくらはぎも動かない。動いていないのに、高さだけが増えていく。

途中で、下りのほうに人が一人乗っていた。男で、手すりに手を置いて、こちらを見ていない。すれ違うとき、その人も歩いていなかった。

上まで、乗り継ぎを入れて五分かかった。

五分。あたしの仕事だと、近い一件ぶんに近い。あたしの脚は、その間ずっと使われなかった。

画像はイメージです

山の上から、海が見えた。二月の海は、色が濃い。水平線が、思っていたより高いところにある。

湯は下のほうにもあった。行くには、また下りて、また上がることになる。今日は、脚を休ませる日にしていた。

一つだけ入った。ほかには、行かなかった。

九十五

夕食は下の広間で、名前の分からないものが三つあった。三つとも食べた。

夜、部屋の窓を開けた。波の音がする。千葉で聞いた海の音より、間隔が長い。

帰りの船は、朝の便に乗った。乗ったのは六人だった。

紀伊勝浦から特急に乗って、乗り継いで、東京に着いた。

家の最寄り駅で、エスカレーターに乗った。乗って、歩いた。左を空けて、右を上がった。

上がりきってから、歩いたことに気づいた。前に人はいなかった。

翌日から、また走った。時間内に着いた割合は、九十五まで戻した。あと二つ足りない。

足りないままだが、ふくらはぎのほうは、あの五分をまだ憶えている。憶えているというのは、上がっているのに何もしなくていい時間が世の中にある、と一度知った、という程度のことである。

この続きに

読み続ける

行き先は、このサイトの中です。

この宿を

予約はこのサイトの外へ、後で送る一通は自分のメールへ届きます。

PR この記録の宿を予約する ホテル浦島 予約サイト(Relux)が新しいタブで開く (外部サイトが新しいタブで開きます) PRExpediaでも空室を見る(新しいタブで開く)(外部サイトが新しいタブで開きます)

この頁の場所を、自分のメールへ一通送る

便り

次の話が公開されたとき、一通だけ届きます。

Field Notes

ホテル浦島

Overview

和歌山県
Region
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町勝浦(勝浦温泉)
Access
JR紀伊勝浦駅から徒歩6分の観光桟橋へ、そこから船またはバスで宿まで送迎。新大阪から特急くろしお、名古屋から特急南紀で紀伊勝浦駅へ。車は専用駐車場からマイクロバスで送迎
Price
予約サイトで確かめた一万円台前半〜(1名1室・条件不明) 公開の情報から中価格帯(Reluxの1名1室で1万円台前半から。同じ日に3万円台・6万円台の表示も並ぶ)

Facility

Room
大人1名・1室の検索で部屋23件・プラン14件(2名の検索では部屋23件・プラン16件)。部屋数は1名と2名で同じで、これまで実測したなかで最多
Meal
食事の付くプランがある。予約の段階で選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 海辺の宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(1名でも部屋23件が出て、2名と同数)
  • 部屋の種類を選びたい一人客
  • 1泊を1万円台前半に収めたい人

向いていない人間

  • 移動を短くしたい人(東京から新幹線と特急を乗り継ぐ)
  • 静かな一軒宿を求める人(規模が大きい)
  • 船やバスでの移動を避けたい人(桟橋から渡る)

予約前の注意事項

宿へは紀伊勝浦駅から徒歩6分の観光桟橋を経て、船またはバスで渡る。車の場合も専用駐車場からマイクロバスの送迎になる。1名で出る部屋は23件で2名と同数だが、プランは1名14件・2名16件。料金と食事条件はプランで分かれるので、予約の段階で確かめること。

次の話

新しい記録が公開されたときだけ、一通お知らせします。
それ以外のメールは届きません。

メールアドレス以外は受け取りません。配信はいつでも解除できます。 取り扱いはプライバシーポリシーのとおりです。