宿と小説の読みもの、余白

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「着くまでに、まだ何時間かある。」

夜話

長い移動の途中で

乗ってしまえば着くまでの時間が余る、その余りを持ったまま読む話を並べています。

並んでいるのは、実在の宿を舞台にした連載小説です。語り手は実在しません。

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乗ってしまえば、着くまでの時間が余る。降りる駅も着く時刻も向こうが持っていて、窓の外を見るか、見ずに眠るかしか残らない。その余りを短くせずに、遠いほうの切符を買ってみませんか。ここに並べたのは、着くまでの時間のほうが長い、七つの話です。

読むだけで従わない。その頁だけ開かずにきた
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修一定年後に一人旅を始めた元会社員

定年のあと一人で旅を始めた修一は、時刻表を持ち歩いて、読むだけで従いません。ある朝、めくる手が、長く開かなかった頁で止まりました。読んでいたのに、行っていません。その道の途中で、何頭ですか、と聞きかけて、やめます。

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長いのがよかった、というほかに理由はない
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有希会社員

でも、遠さを先に決めてから行き先を選ぶ人もいます。会社員の有希は、祝日の並びのいい月を、遠くへ行ける月と決めています。長いのがよかった、というほかに理由はありません。その道中は、文庫のカバーを外し、後ろの頁に挟みます。

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帰りの便を三つ調べて、どれにも丸をつけていない
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克彦早期退職した元管理職

一方で、法事の午前が、そのまま道につながる日もあります。早期退職した元管理職の克彦は、帰りの便を三つ調べて、三つとも手帳に書きました。どれにも丸はつけていません。その晩は、卓が広いので、箸を置いて少し前へ出ます。

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単位がないと、前より良いかどうかが分からない
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大輔元スタートアップ経営者

どちらの駅で降りてもいい、という道もあります。元スタートアップ経営者の大輔は、手のひらを当てて高さを測る癖が抜けません。単位がないと、前より良いかが分かりません。その晩は、腕から外したものを、机ではなく鞄へ入れます。

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ほかに、三つあります。降りてからもう一つ乗り物に乗る晩、渡った先の長い上りで歩きかけて足を戻す晩、いつも降りていた駅で改札を出ずに乗り換える晩。どれも、着くまでの道のほうが長い話です。

『一人であることの、必要経費』 『百五十四メートル』奈緒 『名古屋で降りない』悠真

今夜の一話

修一 — 定年後に一人旅を始めた元会社員 週に三往復の便 時刻表を読むだけで従わない男が、長く開かなかった頁の場所へ発つ。空港から乗った車の窓の外に、若い鹿が一頭立っていた晩である。 読んでいたのに行かなかった場所へ、遠さのほうを理由にして向かう一日で、前の話を読んでいなくても分かります。
合わせるのは、乗る側である。
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舞台になった宿

『週に三往復の便』の舞台は、あかん鶴雅別荘 鄙の座。

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そのほかの話

着いてからの時間の使い方に迷う晩は、『休みが取れたのに、休み方が分からない日に』へ続けて読めます。

今夜の話の語り手 修一有希克彦奈緒悠真大輔

この状態に、ひとつ

鉄道を降りてからバスか船に乗り継ぐ宿なので、乗る便を決めると、その日の残りも決まります。

『乗り物が、何度も替わる宿』
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