乗り物が、何度も替わる宿
鉄道を降りたところで、移動はまだ終わりません。路線バスか船に乗り継ぎ、その先で宿の車に拾われて、はじめて玄関に着きます。乗る便を決めた時点で、その日の何時に荷物を置けるかまで決まります。
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琴平駅発の無料送迎バスは、1日1往復しかない。
一日一往復。この数から、七軒の段数を数えます。送迎あり、と書いてあると、駅までの経路だけ調べれば足りるような気がしてきます。改札を出て、鞄を持ち替え、窓越しに宿の名前を確かめる。そこまでが自分の担当です。
七軒では、その境目がもう一段先にあります。
鉄道の先に、路線バスが挟まる
駅前から路線バスに乗り、終点か途中のバス停で宿の車を待ちます。バスの所要が約三十五分と記録にあるのが四軒あって、ランプの宿 青荷温泉は黒石駅前から、湯山荘 阿讃琴南は琴平駅から、和の宿 ホテル祖谷温泉は大歩危駅から、ホテル松葉川温泉は窪川駅から、それぞれ同じくらいの時間を走ります。
- 静響の宿 山水 奈良県吉野郡十津川村平谷(十津川温泉)
鉄道が通っていない村。バスと送迎で入ります。
一人 一万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付)
- ランプの宿 青荷温泉 青森県黒石市(青荷温泉)
バス約35分のあと、宿の送迎バスで約20分。
東京から約6時間 一人 一万円台後半〜(1名1室・夕朝食付)
- 湯山荘 阿讃琴南 香川県仲多度郡まんのう町
琴平駅発の送迎は1日1往復。
東京から約4時間 一人 二万円台後半〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRReluxで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます) PRExpediaでも空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)止められなかったことを、今回は責めなかった人がいる。— 悠真|作られた静けさに、一晩だけ
- 和の宿 ホテル祖谷温泉 徳島県三好市池田町(祖谷渓)
大歩危駅からバス約35分。
東京から約4時間 一人 三万円台後半〜(1名1室・夕朝食付)
- ホテル松葉川温泉 高知県高岡郡四万十町(松葉川温泉)
窪川駅から四万十交通バスで約35分。
東京から約7時間 一人 一万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付)
- 秘境 白川源泉 山荘 竹ふえ 熊本県阿蘇郡南小国町(黒川温泉の奥)
黒川温泉からタクシー約10分。一人での宿泊は受けていません。
一人 九万円台前半〜(2名1室の1名分・夕朝食付)
静響の宿 山水と秘境 白川源泉 山荘 竹ふえは、降りるバス停の名前だけが分かっています。十津川温泉、黒川温泉。十津川村には鉄道が通っておらず、そこまでの所要と便数は記録にありません。
鉄道を降りたところで、まだ移動は終わりません。そこから路線バスに乗るか船に乗るかして、山あいの奥か海の向こう側まで入り、そこではじめて宿の車に拾われます。段が、一つ多い。
新幹線があり、在来線の特急があり、普通列車があり、その先に路線バスがあって、乗り物が替わるたびに編成は短くなり、床から膝に伝わってくる揺れの粒が大きくなります。さらに、もう一段あります。
この構えで選ぶと、家を出る前に段数が確定します。鉄道が何時に着き、そこから何時のバスか船に乗り、どこで宿の車に拾われるか。三つの時刻が縦に並んだ時点で、その日の何時に荷物を置けるかも、湯に入れるかも決まっています。価格帯にも地域の欄にも、駅から玄関までに段が何段あるかは書かれていません。

分けたのは、鉄道の先に挟まるのが路線バスか航路かです。どちらも自分で時刻を合わせる区間ですが、運休と欠航では代わりの手が違います。
鉄道の先に、航路が挟まる
ホテル清風館は、竹原駅から竹原港まで徒歩約十八分、そこからフェリーで約二十五分、垂水港から送迎車で約十六分です。荷物を提げて十八分歩き、船に乗り、車に乗る。最後の三つが、全部違う乗り物になります。大崎上島は本州と橋で結ばれていないので、渡る手段は船のほかにありません。
- きのえ温泉 ホテル清風館 広島県豊田郡大崎上島町(大崎上島・芸予諸島)
竹原港からフェリー約25分、垂水港から送迎車約16分。
東京から約6時間 一人 二万円台前半〜(1名1室・夕朝食付)
向かないとき
湯山荘 阿讃琴南へ向かう無料送迎バスは、琴平駅を一日に一往復するだけです。その一便に乗るか乗らないかで、着いた日の午後は別のものになります。乗り遅れたときはことでんバスかタクシーになると宿が書いているので代わりの道そのものは分かっていますが、それに切り替えると決めるのは、鞄を提げて琴平駅の前に立っている自分のほうになります。
和の宿 ホテル祖谷温泉の送迎バスも一日一便で、大歩危駅を出るのは十五時十分です。その十五時十分に間に合う特急を選び、その特急に間に合う新幹線を選ぶところから旅程は後ろ側へ組み上がっていき、家を出る時刻がいちばん最後に決まります。
ランプの宿 青荷温泉へ向かう黒石駅前発の路線バスは、夏期の四月一日から十一月三十日で十四時二十分発と十六時十五分発の二本しかありません。冬期の十二月一日から三月三十一日には路線バスそのものが走らず、国道102号の入口から宿までが一般車両通行止めになります。同じ宿でも、夏に組んだ経路は冬にはそのまま使えません。送迎の車が駅を何時に出るのかは、確認できていません。
ホテル清風館へ渡るフェリーは、便数も最終便の時刻も季節で変わります。垂水港からの送迎は事前予約制で時間の指定もあるので、船が港を出る時刻と車が港に来る時刻を、同じ一日の上で二つ合わせることになります。桟橋で船を待つあいだ、荷物は足元に下ろせます。減らないのは、時計を見る回数のほうです。
ここに並ぶのは各宿の記録に書かれていたもので、便数と時刻は変わります。
乗り継ぎの数は宿によって違います。一本で玄関まで行けるほうを見るなら時刻表だけで、玄関まで行ける宿、降りてからの距離のほうで選ぶなら降りてからが、まだ長い宿があります。
海の上の二十五分
船に乗っている二十五分は、降りられない二十五分です。途中で引き返すこともできず、歩くこともできません。することがありません。
手すりに掴まっていても、船室の座席に座っていても、二十五分は勝手に減っていきます。鉄道の二十五分と、数字は同じです。違うのは、この二十五分のあいだには次の乗り換えの案内も、間に合うかどうかの計算も、確かめるものが何一つ挟まらないということです。
何もしない時間が、経路のなかに一つ入ります。
それは乗り継ぎの手間として、そのまま数えられます。