宿と小説の読みもの、余白
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駅から徒歩5分の宿と、バスに15分乗る宿がある。

5分と、15分。どちらも発車と到着の時刻が公開されています。宿に連絡を入れるのが少し億劫だ、という人のための六軒です。遠くの宿へ行くとなると、どこかで一度、その連絡を入れることになります。送迎を頼むか、着く時刻を伝えるか、駅に降りてから電話をかけるか。道の最後の数分は、たいてい宿の側が持っています。

六軒は、そこが違います。玄関までの全部が、公開された時刻表のなかに入っています。分ける物差しは、駅を降りてからの一区間を徒歩で終えられるか、路線バス一本で終えられるかです。歩くのが三軒で、いずれも駅から五分以内。駅前から路線バスに一本乗るのが三軒で、乗車は約五分から約十五分です。この一区間を誰が持っているかは、価格帯の欄にも、地域の欄にも、評点の欄にも出てきません。

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駅から、5分以内で玄関に着く

改札を出てから、乗り物に乗りません。三軒とも駅から五分以内で、はとのす荘は青梅線の鳩ノ巣駅から約五分、旅館花屋は上田電鉄別所線の終点である別所温泉駅から徒歩五分です。

強羅花扇にいたっては、早雲山駅に宿専用のエレベーターが直結しているので、歩く距離そのものがありません。ケーブルカーを降りて、扉が開いて、そこから先はもう館内です。

東京を出てから、乗り物は順に替わります。新幹線があり、私鉄があり、路線バスがあり、乗り物が替わるたびに車両は小さくなり、速度は落ち、窓の外の建物の高さが下がっていきます。その最後の一段まで、発車の時刻が公開されています。

着く時刻を、誰にも先に告げなくて済みます。

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この軸で選ぶと、旅程を宿と共有しないまま出発できます。何時の列車に乗るかを前の晩に変えても、一本遅らせても、誰にも断らなくて済みます。かわりに、駅から玄関までを自分の足で運ぶことになります。

駅前から、路線バスに一本乗る

駅前から出るバスに乗り、降りてから数分歩きます。乗り換えは一度きりで、その一度も駅前で終わります。

日光金谷ホテルは東武日光駅から約五分乗って神橋で降りて徒歩三分、新井旅館は修善寺駅前から東海バスで約十分、常磐ホテルは甲府駅南口から約十五分乗って湯村温泉入口で降りれば徒歩約一分です。

向かないとき

近いことと、乗り換えが少ないことは別です。強羅花扇は歩いて玄関に入れますが、そこに至るまでに新幹線で小田原、箱根登山鉄道で箱根湯本、三度のスイッチバックを挟む登山電車で強羅、ケーブルカーで早雲山と、乗り物が四度替わります。四度とも、荷物を持ち上げて降り、次のホームまで運び直すことになります。新井旅館も、三島で新幹線を降りてから伊豆箱根鉄道駿豆線で約三十三分かけて田方平野を下り、終点の車止めの前で線路が尽きて、その先にようやくバスがあります。

はとのす荘へ向かうなら、青梅から奥多摩方面は本数が減るので、青梅のホームで何時の列車に乗り継ぐかを、家を出る前に決めておくことになります。時刻表が公開されていることと、便がたくさんあることは、同じではありません。一本落とせば、次までの間隔がそのぶん開きます。

チェックイン受付が十八時までの宿があります。強羅花扇、新井旅館、旅館花屋がそれにあたります。自分の足で入れることと、何時に着いてもいいことは別で、この三軒では十八時に間に合う列車を選ぶところが、時刻表の側ではなく宿の側から決まっています。

ここに並ぶのは各宿の記録に書かれていたもので、便数と時刻は変わります。

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同じ「公共交通で着く」でも、乗り物の数で別の一覧になります。バスと船を継いでいくなら路線バスと船を、乗り継いでいく宿、降りた駅のそばで泊まるなら遠くまで来て、駅の近くに泊まる宿があります。

誰にも待たれていない到着

何時に着くかは、時刻表に書いてあります。

書かれていないのは、着いたときに誰も立っていない、ということです。名前を呼ばれることも、荷物に手を伸ばされることもありません。

送迎の車が待っている到着とは、玄関の入り方が少し違います。自分で歩いて、自分で戸に手をかけ、内側に溜まっている暖かい空気と、そこに混じっている湯の匂いを、最初に受けるのは自分になります。

その差は、分数になりません。

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