宿と小説の読みもの、余白
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遠くまで来ても、着いてから疲れなくていい宿がある。

話は、最後の十五分から始めます。遠い宿ほど、着いてからも遠い。そう思って、駅から先の足を先に心配します。バスは何時まであるか、タクシーはいるか、送迎は間に合うか。

六軒は、そうなりません。

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駅から歩く

改札を出て、十五分以内に着きます。大丸別荘は二日市駅から約十分、三木屋は城崎温泉駅から約十五分です。歩き出す時刻を、こちらで決められます。

鞄の重さは、この十五分のあいだだけ自分が持ちます。それは所要時間の欄には出てきません。

東京から四時間以上かかるのに、最寄り駅を出てからは十五分で終わります。長いのは列車に乗っている時間のほうで、宿は駅の近くにあります。遠さのほとんどが、列車の側に載っています。

四時間か五時間、乗り物を替えながら少しずつ速度を落としてきて、最後に残るのが十五分です。大丸別荘なら博多から在来線で十六分下った二日市駅、三木屋なら京都から特急で二時間半揺られた先の城崎温泉駅で、改札を出れば、そこはもう宿のある町です。

この軸で選ぶと、着いた日の夕方が自分の手に残ります。列車が遅れても崩れるのは列車の側だけで、駅から先は歩けば届くので、何時に着くと宿に伝える必要も、迎えを待つ時間もありません。価格帯にも評点にも、この十五分が自分のものかどうかは出てきません。

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分けたのは、駅を出てから歩くか、乗るかです。歩ける宿は着く時刻を自分で決められ、乗る宿はその手配が要ります。

駅から、十五分以内を乗る

路線バスか車で、駅から宿まで十五分以内です。岩井屋だけが路線バスで、岩美駅から約十分乗って降りれば徒歩一分、残る三軒は車になります。所要は短いですが、短い区間ほど手配が要ります。

向かないとき

十五分と三十五分は、どちらも「駅から」の一語で書かれます。改札を出て十五分なら、鞄を持ち替えてそのまま歩き出せて、着いた日の夕方はまだ手元に残っています。三十五分なら、そこにもう一つ乗り物が挟まります。同じ一語のなかに、その夕方に何ができるかの差が入っています。

駅に近いことと、東京から近いことは関係がありません。岩井屋は東京から約六時間かかって岩美駅からは約十分で、その六時間のあいだに新幹線、特急スーパーはくと、山陰本線、バスと乗り物が四度替わります。小天狗さんろじも、小倉駅から下関駅へ十五分、下関駅から山陰本線で川棚温泉駅まで約四十分乗り継いだうえでの、タクシー約五分です。長いのは前半で、最後だけが短い。

その最後の短い区間が、いつでも拾えるとはかぎりません。岩井屋へ向かう岩美駅からのバスは本数が限られ、代わりとして書かれているのはタクシー約七分です。椎葉山荘は嬉野温泉駅のタクシーの台数が少なく、事前の電話配車が必要な場合があると宿が書いています。駅前に降りれば車がいる、という前提で組むと、ここで止まります。

山荘 天の里は最寄り駅からの公共交通の便が限られ、要事前予約の無料送迎かタクシーが事実上必須になり、その送迎は定員四名で、当日予約を受けていません。三木屋は徒歩十五分の道を自分で歩けますが、無料送迎バスのほうは十二時三十分から十八時着の特急に対応する分のみで、事前連絡が要ります。歩いて行けることと、車に乗れることは、別々に決まっています。

ここに並ぶのは各宿の記録に書かれていたもので、現地で変わっていることはあります。

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駅からの距離は、軸を変えると逆から見えます。降りてからが長いほうを見るなら降りてからが、まだ長い宿、乗り継いで行くほうなら路線バスと船を、乗り継いでいく宿があります。

歩いて着くということ

四時間乗ってきて、最後に十五分歩く。

その十五分は、移動の残りであり、同時に到着の始まりでもあります。駅前の店の並びが途切れ、道の幅が狭くなり、靴底に当たるものが変わって、宿の玄関に着くころには、列車のなかで固まっていた背中がもう伸びています。

車で五分の宿には、この十五分がありません。早く着くほうが、たいていは楽です。

早いことと、切り替わることは、同じではありません。

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