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RECORD № 052

四十八度、毎分百リットル

客を情報ではなく、顔で記憶する技術

五ヶ月前に一度会った客の顔を覚えていて、その違いの中身まで言葉にできる。データも履歴も使わない。宿という場所の合理性が、都会のそれとは別の原理で成立していることを、彼女は身体で示している。

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便箋

高志の宿から帰って、二か月が経った。後輩に渡すつもりで書いた便箋は、まだ引き継ぎノートに挟んだままだった。渡すきっかけを、何度か探した。探したが、見つからなかった。

見つからないまま、後輩は今日も繕い物の糸を私と同じ長さに切っていた。何も言わなかった。言わないことに、以前ほど落ち着かなさを感じなくなっている自分がいた。

福岡に、慶応元年創業の老舗旅館があるという記事を見た。湯の温度と湧出量を、四十八度・毎分百リットルという数字で公式サイトが明記していた。数字で管理された湯、という言葉に、興味を持った。

二日市

新幹線で博多まで、五時間近い。博多からJR鹿児島本線に乗り換え、二日市駅で降りた。駅から徒歩十分。住宅地の中に、老舗の門が見えてきた。

画像はイメージです

門をくぐると、庭園があった。三千五百坪あるという。大正・昭和・平成、それぞれの時代の建物が分かれて建っている。時代の違う建物が、同じ敷地に共存していた。

大丸別荘

案内された部屋は、昭和四十五年建築の平屋だった。古民家風の造りで、堀ごたつがあった。四十一室、すべて和室だという。

画像はイメージです

廊下で、湯上がりらしい男とすれ違った。歩く速さが一定だった。急いでいるのでも、ゆっくりしているのでもない、決まった速さだった。長年その速さで歩いてきたのだろう。手には手帳。何かを控えているようだった。

大浴場「次田の湯」に入った。四十八度・毎分百リットルという数字を、掲示で確認した。数字で管理されていると分かっていても、湯に浸かれば、それはただの湯だった。数字と体感は、別の場所にある。

天拝会席

夕食は個室で出た。月替わりの創作会席だという。品数が多く、一つ一つに時間をかけて説明があった。説明の長さが、ちょうどよかった。長すぎず、短すぎない。この呼吸を、私も自分の仕事で持っているだろうかと考えた。

だし巻き玉子の話を、朝食の説明で先に聞いていた。聞いていたぶん、朝が少し楽しみになった。

朝、だし巻き玉子と温泉どうふの朝食を食べた。聞いていた通りだった。

十一時前に発って、二日市駅まで戻り、博多、新幹線と乗り継いで、会津へ戻った。

車内で、引き継ぎノートを開いた。便箋は、まだ挟んだままだった。渡すかどうかを、また先送りにした。先送りにすることを、今回は悪いことだと思わなかった。渡すべき時が来れば、渡す。来なければ、来ないままでいい。

四十八度、毎分百リットル。数字で管理された湯にも、静けさは宿る。

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Field Notes

大丸別荘(二日市温泉大丸別荘)

Overview

福岡県
Region
福岡県筑紫野市(二日市温泉)
Access
博多駅からJR鹿児島本線でJR二日市駅まで約16分、二日市駅から徒歩約10分またはタクシー約5分
Price
中価格帯(1泊2食1名28,166円〜30,355円)

Facility

Room
【昭和亭】和室10畳+堀ごたつ4.5畳(定員1〜3名、昭和45年建築の平屋)ほか。総客室数41室(すべて和室)
Meal
夕朝食付。夕食は月替わりの創作会席「天拝会席」(お食事処)。朝食はだし巻き玉子・自家製温泉どうふを含む半精進料理

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 老舗宿
  • 個室食

向いている人間

  • 個室での食事や老舗旅館の様式的なもてなしを好む人
  • 静かな日本庭園のある宿でゆっくりしたい一人旅行者

向いていない人間

  • 一軒宿レベルの完全な静寂・小規模感を求める人(41室は老舗としては規模が大きめ)
  • 専用の離れや大浴場の完全な非加水かけ流しに強くこだわる人

予約前の注意事項

夕朝食付プランの多くは事前カード決済限定・返金不可の条件付き。刺青・タトゥーのある客は大浴場利用不可。大浴場は源泉かけ流しを基本としつつ一部ろ過・加温循環も併用。