宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 081

次の八十歳

走った街を一つも憶えていない働き方から、どう降りずに離れるか

自転車で街を走って生きている。先週の走行距離はアプリが憶えているが、通った道は一つも憶えていない。店の名前ではなく、番地と入口の形で街を憶える癖がついた。休む日を自分で決められる働き方のはずが、決めているのは単価と天気だと、うすうす気づいている。

奈緒という語り手について →

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五時間

祖母の傘寿だと、電話で本人から聞いた。傘寿が何かは、切ってから調べた。八十歳だという。

八十いくつだと思っていた。いくつ、の中身を、あたしは一度も数えたことがなかった。

いつもの一泊とは違う距離にした。博多まで、新幹線で五時間近い。仕事のアプリで、初めて三日ぶんの稼働を空けた。三日空けたのは、初めてだった。

三千五百坪

博多から在来線で二日市駅、そこから歩いて十分ほどだった。

門をくぐると、庭園があった。三千五百坪あるという。大正・昭和・平成、それぞれの時代の建物が分かれて建っていた。古いものを壊さずに、新しいものを隣に建て足してきたらしい。

祖母が、庭の鯉に、太ってるね、と言った。鯉は聞こえていないはずだが、少し速く泳いだ気がした。

画像はイメージです

慶応元年の創業だと、宿の人が言った。百六十年ぶんの何かが、この庭のどこかにあるはずだが、どこにあるのかは分からなかった。分からなくていいのだと思った。

傘寿

夕食は個室だった。祖母の傘寿を、二人で祝った。誰かを呼ぶという発想が、どちらからも出なかった。

祖母は、乾杯のあと、長生きするつもりはなかった、とだけ言った。あたしは、それ以上は聞かなかった。

画像はイメージです

次の八十歳

朝、祖母と二人で庭を歩いた。祖母の速度で歩いても、十五分あれば端まで行けた。

池のほとりに、男が一人いた。同じ角度から、何度も撮り直していた。撮り終えて、画面を見ずに歩き出した。

「次は米寿だね」と祖母が言った。米寿は八十八だという。あたしは、その日付をアプリの予定には入れなかった。八年先の予定は、アプリでは管理できない。手帳に、年だけ書いた。

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Field Notes

大丸別荘(二日市温泉大丸別荘)

Overview

福岡県
Region
福岡県筑紫野市(二日市温泉)
Access
博多駅からJR鹿児島本線でJR二日市駅まで約16分、二日市駅から徒歩約10分またはタクシー約5分。
Price
予約サイトで確かめた三万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付) 2名1室での実測二万円台半ば〜(2名1室の1名分・夕朝食付) 公開の情報から中価格帯(1泊2食1名二万円台後半〜三万円台前半。2名1室では1名あたり二万円台前半換算)

Facility

Room
【昭和亭】和室10畳+堀ごたつ4.5畳(定員1〜3名、昭和45年建築の平屋)ほか。総客室数41室(すべて和室)
Meal
夕朝食付。夕食は月替わりの創作会席「天拝会席」(お食事処)。朝食はだし巻き玉子・自家製温泉どうふを含む半精進料理

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 老舗宿
  • 個室食

向いている人間

  • 高齢の家族の節目を、静かな個室食で祝いたい人
  • 3,500坪の庭園、時代の異なる建物を巡りたい人
  • 老舗旅館の様式的なもてなしを好む人

向いていない人間

  • 一軒宿レベルの完全な静寂・小規模感を求める人(41室は老舗としては規模が大きめ)
  • 専用の離れや大浴場の完全な非加水かけ流しに強くこだわる人

予約前の注意事項

夕朝食付プランの一部に事前カード決済限定・返金不可の条件が付く場合がある。刺青・タトゥーのある客は大浴場利用不可。大浴場は源泉かけ流しを基本としつつ一部ろ過・加温循環も併用。料金は変動する。

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