宿と小説の読みもの、余白

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「自分の仕事を、たぶん誰も見ていない。」

夜話

自分の仕事が、誰にも見られていないと思った日に

気をつけてやっている仕事を、たぶん誰も見ていない、そういう日に読む話を並べています。

並んでいるのは、実在の宿を舞台にした連載小説です。語り手は実在しません。

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これだけ気をつけて仕事をしていることを、たぶん誰も見ていない。よくやったとも、直せとも言われた覚えのないまま、明日も同じようにやる。そんな日は、誰も自分を知らない土地で、頼まないと決めていたことを一度だけ頼んでみませんか。

置いて、撮って、下りる。頼む相手のいない働き方でいる
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奈緒フードデリバリーの配達員

フードデリバリーの配達員の奈緒は、ドアの前でいいです、と言われて袋を置き、写真を撮って階段を下ります。呼び鈴を押すことは、もうほとんどありません。その晩は、迎えを頼まずに、駅からの道を自分で歩きます。

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段取りの要らない食事の、最初の一口を久しぶりに味わう
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克彦早期退職した元管理職

見ていた人のほうが、いなくなることもあります。早期退職した元管理職の克彦は、案内板の前に立って、自分のいた会社の名前がもう無いのを確かめました。着いた晩は、段取りの要らない食事の、最初の一口を味わいます。

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誰に言われたのでもなく、勤めはじめた年から書いてきた
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千鶴宿の仲居

逆に、見られていないほうを続けると決めた人もいます。宿の仲居の千鶴は、橋の欄干のあたりで、家の顔から宿の顔に変わります。客の好みは、伺うより先に覚えてしまいます。その日は、春から開いていない帳面に、また一行書きます。

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書いておかないと消えてしまうものが、確かにある
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千鶴宿の仲居

同じ千鶴が、長く勤めた人を見送ります。その人は最後の日も、いつも通りに見送りをして、いつも通りに帰りました。いつも通りでなかったのは、置いていかれたノートだけです。泊まった先では、白い布に移った色を、しばらく見ています。

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ほかに、千鶴の別の日が四つあります。どれも同じ人の、前後する日です。決まりに書いていないことを、誰に言われたのでもなく続けてきた日ばかりです。

『一行だけ、違う字で』千鶴 『四十八度、毎分百リットル』千鶴 『二センチ』千鶴 『十一通り』千鶴

今夜の一話

奈緒 — フードデリバリーの配達員 歩いて来た人 顔を合わせない働き方を続けてきた女が、久しく見ていなかった海のそばの宿へ向かう。着いてから発つまで、誰にも何も頼まずに済ませるつもりの一泊である。 誰にも頼まない働き方を続けた人が、頼まなかったことのほうを言い当てられる一日で、前の話を読んでいなくても分かります。
頼む相手がいない働き方を、自分で選んだ。
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舞台になった宿

『歩いて来た人』の舞台は、満ちてくる心の宿 吉夢。

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そのほかの話

この頁に六つある千鶴の話は、人物録の千鶴の頁から続けて読めます。

今夜の話の語り手 奈緒克彦千鶴

この状態に、ひとつ

湧いたままでは使えない湯に、熱か水を足して出す宿なので、浸かるまでに手が一つ挟まります。

『そのままでは、使えなかった湯の宿』
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