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RECORD № 051

作られた静けさに、一晩だけ

他人の物語を燃料にして、自分の予定表の空白とどう向き合うか

生活のほとんどを推しに注いでいる。遠征と配信で予定表は埋まり、空白の予定を「もったいない」と感じる。他人の物語を燃料にして走り続ける日々の先に何があるのか、本人はまだ考えないことにしている。

悠真という語り手について →

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十か月

高志の宿から帰って、二か月ほどはサブスクの更新を月ごとにスキップしていた。三か月目、通知が来た。前の配信のアーカイブに、限定映像が一本追加されたという通知だった。活動再開ではない。過去映像の追加公開、それだけの通知だった。

その日のうちに、更新を戻した。戻したことに、理由はいくつもつけられる。追加された映像を見たかった。生活費みたいなものだから。惰性。どれも本当で、どれも本当でない気がした。

今日、更新履歴を開いた。十か月ぶんの明細が並んでいる。二か月だけ、金額が空白だった。空白の二か月を、しばらく見ていた。

香川に、山間の一軒宿があるという記事を見た。送迎バスが一日一往復しかない。里山を再現した宿だという。誰かが作った物語のような場所に、一晩だけ身を置いてみたくなった。

阿讃

岡山で乗り換えた特急は、四国山地に入ると速度を落とした。琴平駅で降りる。金刀比羅宮の参道で有名な駅だが、今日はそちらへは向かわない。送迎バスは一日一往復、この便を逃すと来られない。

画像はイメージです

バスは山道を三十分上った。窓の外に、渓流が見え隠れした。作られた景色ではないはずだが、里山という言葉がすでに一つの演出のように感じられた。

里山ヒュッテ

独立棟の客室は、坂道を下った先にあるという。フロントから部屋まで、屋外の通路を歩く。隣の棟の気配がしない距離だった。

ロビーで、地元の民藝品らしい木彫りの置物を眺めている男を見た。手に取らず、じっと見ているだけだった。何かの参考にしているのか、ただ眺めているだけなのか、判断がつかなかった。着ているものの色を、後になっても思い出せなかった。

会場食

夕食は里山料理のコースだった。讃岐と阿波の食材を使っているという。一品ごとに、産地の説明があった。説明を聞きながら、推しの過去映像のことは、不思議と思い出さなかった。

画像はイメージです

貸切の露天風呂は追加料金だった。払って入った。渓流の音だけが聞こえた。通知の音がしない一時間を、久しぶりに過ごした。

責めない

朝、もう一度貸切風呂に入った。夜より水音が近く聞こえた。

送迎バスで琴平駅へ戻り、特急、新幹線と乗り継いで、東京へ戻った。

車内で、更新履歴をまた開いた。十か月ぶんの明細。二か月だけ空白で、あとは埋まっている。止められなかった、と正直に手帳に書いた。以前なら、その一行に自己嫌悪が続いていた。今回は続かなかった。

止められなかった。止められなかったことを、今回は責めなかった。責めなかった、というだけで、何かが変わった気がした。

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Field Notes

湯山荘 阿讃琴南

Overview

香川県
Region
香川県仲多度郡まんのう町
Access
JR琴平駅から宿の無料送迎バス(1日1往復・要予約)で約30分、またはことでんバス(琴参バス)で約35分(勝川橋停留所下車徒歩1分)
Price
中価格帯(1泊2食1名税込24,933円〜)

Facility

Room
モデレート和室(定員1〜4名)・モデレートツイン(定員1〜2名)ほか。本館客室と山の斜面の独立棟「里山ヒュッテ」で構成、総室数28室
Meal
夕朝食付。メインダイニングで讃岐と阿波の山海の幸・地元産野菜を使った季節の里山料理コース(会場食)

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 山間の宿
  • 独立棟
  • 貸切風呂

向いている人間

  • 一人で山間の宿にこもり、誰にも会わずに温泉と食事だけに集中したい人
  • 貸切風呂やサウナで一人の時間を過ごしたい人

向いていない人間

  • 身一つでふらっと立ち寄りたい・駅から徒歩で行きたい人
  • 格安ステイを求める人(貸切風呂は別料金)

予約前の注意事項

宿の無料送迎バスは1日1往復のみで事前予約が必要。乗り遅れると路線バスかタクシー利用になる。貸切露天風呂は追加料金制。