宿と小説の読みもの、余白
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駅から先の一区間を、自分で選べる宿がある。

旅程は、出発の側から埋まっていきます。何時の列車に乗るかを先に決めて、あとは繋がります。予定表はたいてい、その順に書かれています。

八軒では、順序が逆になります。終わりから始めます。

群馬県 / 岡山県 / 秋田県 / 鳥取県 / 石川県 / 長野県旅館 國崎(長崎県雲仙市)は、地図の元データに本土の輪郭が無いため塗っていない。

バスの時刻に、出発を合わせる

最後の区間を路線バスで行く六軒です。所要はいちばん短い岩井温泉 岩井屋の約十分から、いちばん長い法師温泉 長寿館の約五十分から七十分まであって、同じ「バスで行く」という一語のなかに七倍の開きが入っています。

乳頭温泉郷 妙乃湯は田沢湖駅前から約四十五分で、降りて徒歩一分。名泉鍵湯 奥津荘は津山駅から約六十分、積善館は中之条駅から約四十分、旅館 國崎は諫早駅から小浜まで約五十分です。

最後の区間が路線バスで、その便が一日に四本しかないのなら、先に決まるのはその四本のうちのどれかです。何時の新幹線に乗るかは、そこから逆に決まります。時刻表を、終わりから読むことになります。

経路の後ろへ行くほど、乗り物は小さくなります。新幹線があり、在来線があり、路線バスがあり、降りてからは自分の足になって、鞄を持ち替えながら砂利か舗装かを踏んでいく数十歩で経路が終わります。

その、いちばん小さくていちばん遅い一段が、いちばん先に決まります。

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この軸で選ぶと、旅程を組む順番が変わります。最後の一区間の便を先に押さえ、そこに間に合う特急を選び、そこに間に合う新幹線を選ぶ。予約の前に決まるのは宿ではなく、家を出る時刻のほうです。かわりに、迎えを待つ時間も、宿に電話をかける用も、経路のどこにも入りません。

分けたのは、路線バスが経路に入るかどうかです。遠さでは分けていません。八軒でいちばん近い一軒は、終着駅から徒歩五分です。

駅から先を、車か徒歩で行く

路線バスが経路に入らない二軒です。

金沢・深谷温泉 元湯石屋は、金沢駅からでも森本駅からでもタクシーになり、公共交通だけでは到達できないと予約ページに書かれています。この一軒だけ、最後の一段が交通費の側に乗ります。

旅館花屋は、上田電鉄別所線の終点から徒歩五分です。乗り換えはもう終わっていて、あとは歩くだけになります。

向かないとき

一日四便と一時間四便は、同じ「バス約五十分」として表示されます。法師温泉 長寿館へ入る町営バスは午前二便と午後二便の計四便で、この四本のどれに乗るかで家を出る時刻が決まり、乗り遅れると猿ヶ京からタクシーになります。名泉鍵湯 奥津荘へ向かう津山駅発の本数は少なくなっていると公式が書いており、岩井温泉 岩井屋も岩美駅からのバスの本数が限られます。

列車が遅れれば、その一本を落とします。次の便までの時間は長く、駅の待合の椅子に鞄を置いて読むものが尽きたあとにも、まだ何十分かが残ります。到着の時刻を当日の判断でずらしたい人には、この八軒は向きません。

宿が送迎をしていないと言い切れるのは、送迎なしとはっきり書かれている場合だけです。名泉鍵湯 奥津荘、積善館、旅館花屋には送迎なしの明記があり、乳頭温泉郷 妙乃湯は「駅からの無料送迎はない」と公式に書いています。金沢・深谷温泉 元湯石屋には送迎の有無の明記がなく、法師温泉 長寿館には送迎についての記載そのものがありません。無いのではなく、書かれていない。この二軒については、迎えが来るとも来ないとも決められないので、駅を降りてから先をどう行くかは、こちらで用意しておくことになります。

ここに並ぶのは各宿の掲載ページに書かれていたもので、時刻表は改正で変わります。

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最後の道を誰が行くかで、一覧は分かれます。宿の車が来るほうなら迎えの車で、最後の道を行く宿、送迎の時刻に乗れなくても着くほうなら送迎に乗れなくても、駅から届く宿があります。

乗り遅れなかった日のこと

バスの所要は測れます。便数も数えられます。運賃も、妙乃湯の田沢湖駅前からの片道八百二十円のように、記録に残っています。

残らないのは、その便に乗れたかどうかです。乗れた日は、ただ着いた日として過ぎていきます。

降りてから玄関までの数十歩は、どの時刻表にも書かれていません。その数十歩を歩いているあいだ、次の乗り継ぎのことをもう考えなくてよくなっていて、両手に提げたものの重さだけが残っています。

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