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減り方
予約の画面で一名にすると、たいていは数が減る。
去年の秋に取った西浦の宿は、一名にすると部屋が六つで、プランは二つだった。二名にすれば部屋は八つ、プランは六つになる。同じ宿が、人数で別の顔になる。
減り方には、その宿が誰を客だと思っているかが出る。
わたしは、それを見るようになった。泊まる前に、まず減り方を見る。
三月の入口に、熊本の宿を開いた。
一名にした。部屋が十二、プランが九。
二名にした。部屋が十二、プランが九。
同じ数だった。
減らない宿があるのは知っていた。けれど、部屋もプランも、どちらも一つも動かないのは初めてだった。
ここでは、人数で扱いが変わらない。
インター
行き方を読んだ。
新幹線で新八代まで行って、そこからバスに乗る。降りるのは人吉インターである。駅ではない。高速道路のインターチェンジに停留所がある。
そこから宿までは、車で五分ほどだと書いてあった。
その下に、送迎不可、とあった。
書いてある、というのは大きい。書いていない宿だと、着いてから聞くことになる。聞いて、無理でした、となる。

停留所
三月の入口の九州は、東京より一枚薄い上着でいい。
新八代でバスに乗り換えた。乗客は少ない。高速に入って、しばらく山が続いた。
人吉インターで降りた。降りたのはわたし一人だった。
停留所は、高速道路の脇にある。屋根と、ベンチと、時刻表。それだけである。人の家も店も見えない。
呼んだ車が来るまで、七分あった。七分、そこに立っていた。
立っているあいだ、誰にも見られなかった。見られないことに気づいたのは、車に乗ってからである。
向かい
宿は町なかにあった。前の道は広くない。
案内に書いてあったとおり、向かいがスーパーだった。
わたしは素泊まりを取っている。一名で出た二つのうち、安いほうである。夕食は付かない。
荷物を置いて、湯に入って、それから道を渡った。

閉店の一時間前で、惣菜の棚に札が貼ってあった。三つ買った。何を買ったかは書かない。書くほどのものではないからではなく、書くと、選んだことになる気がしたからだ。
籠を持って並んでいるとき、前に男が一人いた。買ったのは二つで、片方は水だった。会計のあと、袋を辞退して、両手に持って出ていった。
宿へ戻る道で、その人が先を歩いていた。同じ方向だった。
三行
部屋で食べた。
膝の前に並べて、順に開けた。畳の上に置くと、容器の底の形が畳に残る。
食べながら、仕事のことを考えていた。考えたくて考えたのではない。ほかにすることがなかった。
署名は三行のままである。去年の秋に四行から直した。肩書きの行と、電話の行を消して、名前の下に空白を一行取った。二行にはしなかった。
直してから、四か月ほど経つ。誰にも何も言われていない。

気づく
東京に戻って、三日目だった。
取引先の担当者と電話をしていて、用件が終わったあとに、その人が言った。
肩書き、書かれなくなりましたよね。
わたしは、そうですね、と答えた。それだけ言って、電話を切った。
切ってから、しばらく画面を見ていた。
言われるとは思っていなかった。四行が三行になっただけである。増やしたのではなく、消した。消したものは、そこに無い。無いものに気づく人がいるとは、考えていなかった。
わたしは何も変えていない。仕事の受け方も、断り方も、去年と同じである。
同じだと思っている。
その日の夜、泊まる予定のない宿の画面を開いた。一名にして、二名にして、数を見比べた。減り方だけ見て、閉じた。
署名は三行のままにしてある。名前の下の一行も、空けたままにしてある。
