宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 101

同じ数

評価の圏外で、自分の容量に合った暮らしを決めること

経歴と容姿で値踏みされる場所からは、少しずつ降りてきた。年賀状は五枚だけ書く。紅葉は撮らない。憶えていられる分だけで足りる。少ないのは足りないからではなく、そう決めたからだ。

志乃という語り手について →

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減り方

予約の画面で一名にすると、たいていは数が減る。

去年の秋に取った西浦の宿は、一名にすると部屋が六つで、プランは二つだった。二名にすれば部屋は八つ、プランは六つになる。同じ宿が、人数で別の顔になる。

減り方には、その宿が誰を客だと思っているかが出る。

わたしは、それを見るようになった。泊まる前に、まず減り方を見る。

三月の入口に、熊本の宿を開いた。

一名にした。部屋が十二、プランが九。

二名にした。部屋が十二、プランが九。

同じ数だった。

減らない宿があるのは知っていた。けれど、部屋もプランも、どちらも一つも動かないのは初めてだった。

ここでは、人数で扱いが変わらない。

インター

行き方を読んだ。

新幹線で新八代まで行って、そこからバスに乗る。降りるのは人吉インターである。駅ではない。高速道路のインターチェンジに停留所がある。

そこから宿までは、車で五分ほどだと書いてあった。

その下に、送迎不可、とあった。

書いてある、というのは大きい。書いていない宿だと、着いてから聞くことになる。聞いて、無理でした、となる。

画像はイメージです

停留所

三月の入口の九州は、東京より一枚薄い上着でいい。

新八代でバスに乗り換えた。乗客は少ない。高速に入って、しばらく山が続いた。

人吉インターで降りた。降りたのはわたし一人だった。

停留所は、高速道路の脇にある。屋根と、ベンチと、時刻表。それだけである。人の家も店も見えない。

呼んだ車が来るまで、七分あった。七分、そこに立っていた。

立っているあいだ、誰にも見られなかった。見られないことに気づいたのは、車に乗ってからである。

向かい

宿は町なかにあった。前の道は広くない。

案内に書いてあったとおり、向かいがスーパーだった。

わたしは素泊まりを取っている。一名で出た二つのうち、安いほうである。夕食は付かない。

荷物を置いて、湯に入って、それから道を渡った。

画像はイメージです

閉店の一時間前で、惣菜の棚に札が貼ってあった。三つ買った。何を買ったかは書かない。書くほどのものではないからではなく、書くと、選んだことになる気がしたからだ。

籠を持って並んでいるとき、前に男が一人いた。買ったのは二つで、片方は水だった。会計のあと、袋を辞退して、両手に持って出ていった。

宿へ戻る道で、その人が先を歩いていた。同じ方向だった。

三行

部屋で食べた。

膝の前に並べて、順に開けた。畳の上に置くと、容器の底の形が畳に残る。

食べながら、仕事のことを考えていた。考えたくて考えたのではない。ほかにすることがなかった。

署名は三行のままである。去年の秋に四行から直した。肩書きの行と、電話の行を消して、名前の下に空白を一行取った。二行にはしなかった。

直してから、四か月ほど経つ。誰にも何も言われていない。

画像はイメージです

気づく

東京に戻って、三日目だった。

取引先の担当者と電話をしていて、用件が終わったあとに、その人が言った。

肩書き、書かれなくなりましたよね。

わたしは、そうですね、と答えた。それだけ言って、電話を切った。

切ってから、しばらく画面を見ていた。

言われるとは思っていなかった。四行が三行になっただけである。増やしたのではなく、消した。消したものは、そこに無い。無いものに気づく人がいるとは、考えていなかった。

わたしは何も変えていない。仕事の受け方も、断り方も、去年と同じである。

同じだと思っている。

その日の夜、泊まる予定のない宿の画面を開いた。一名にして、二名にして、数を見比べた。減り方だけ見て、閉じた。

署名は三行のままにしてある。名前の下の一行も、空けたままにしてある。

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Field Notes

人吉温泉 鍋屋

Overview

熊本県
Region
熊本県人吉市九日町(人吉温泉)
Access
福岡方面からは九州新幹線・新八代駅でB&S宮崎行きバスに乗り換え、人吉インター下車。熊本方面からは宮崎行き高速バス「なんぷう号」で人吉インター下車。宿の案内に、このバス経路については「送迎不可」と書かれている。人吉インターから市内中心部までは車で5分。宿の向かいにスーパーがある
Price
予約サイトで確かめた一万円台前半〜(1名1室・素泊まり) 公開の情報から中価格帯(Reluxの1名1室で素泊まり一万円台前半〜、朝食付き一万円台半ば)

Facility

Room
大人1名・1室の検索で部屋12件・プラン9件(2名の検索でも部屋12件・プラン9件)。部屋もプランも完全に同数
Meal
素泊まりと朝食付きが1名でも選べる。予約の段階で選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 町なかの宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(1名でも部屋12件・プラン9件が出て、2名と同数)
  • 1泊を1万円台前半に収めたい一人客
  • 素泊まりで食べるものを自分で決めたい人(向かいにスーパーがある)

向いていない人間

  • 駅から歩いて着きたい人(高速バスは人吉インター下車で、そこから車で5分)
  • 宿の送迎をあてにする人(バス経路については送迎不可と案内されている)
  • 夕食を宿でとりたい人(1名で出るのは素泊まりと朝食付き)

予約前の注意事項

高速バスで来る場合の停留所は人吉インターで、宿の案内にはこのバス経路については「送迎不可」と書かれている。インターから市内中心部までは車で5分ほどなので、そこからの足は自分で用意すること。1名で出るプランは素泊まりと朝食付きで、夕食は付かない。宿の向かいにスーパーがある。料金と食事条件はプランで分かれるので、予約の段階で確かめること。

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