宿と小説の読みもの、余白

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「自分がやらなくてもいい仕事に、なりかけている。」

夜話

自分の仕事が、この先も要るのか分からなくなった日に

依頼が届くと本文より先に単価の欄を見てしまう、そういう日に読む話を並べています。

並んでいるのは、実在の宿を舞台にした連載小説です。語り手は実在しません。

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仕事の依頼が届くと、本文より先に単価の欄を見る。文面は前より丁寧で、断る理由はどこにも書かれていない。返事を一晩あとに回して、名前の通じない土地の湯に入ってみませんか。ここに並べたのは、自分の仕事の形を、外から少しずつ書き換えられた七つの話です。

直すところの無い紙を、癖で最後まで読んでしまう
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元雑誌編集者

たとえば、元雑誌編集者で、いまは一人で校正をしている楓は、いちばん量をくれる相手から、前より丁寧な文面で、前より小さい数字を渡されました。その晩は、部屋の案内書きを癖で最後まで読んで、直すところが無いことを確かめます。

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予定表の白いところが、余白ではなく詰め忘れに見える
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志乃フリーランスデザイナー

でも、細っていくのが値段だけとは限りません。フリーランスのデザイナーの志乃は、断ることが増えて、予定表の白いところが、余白ではなく詰め忘れに見えます。着いた先では、滞在の目的を書く欄に、点を一つだけ打って返します。

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同じ名前で呼ばれるのに、前の仕事とは手つきが違う
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元雑誌編集者

同じ楓の、少しあとの話です。機械の出した結果に足す形で、と条件の付いた依頼を受けました。同じ名前で呼ばれるのに、前の仕事とは手つきが違います。その晩は、品書きの古い字に目を止めて、赤を入れずに通します。

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消したものに気づく人がいるとは、考えていなかった
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志乃フリーランスデザイナー

同じ志乃が、変えたつもりのないところを外から言われます。署名から肩書きの行を消したのは去年で、無いものに気づく人がいるとは考えていませんでした。泊まった晩は、向かいの店で買ってきたものを、部屋の畳に並べて順に開けます。

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ほかに、楓の別の晩が三つあります。どれも同じ人の、前後する日です。受けるか断るかを決めたあと、次の束に戻る前に、一晩だけ空けた話が並びます。

『通した一行の、遠さ』 『赤を入れるところ』 『いい言葉に線』

今夜の一話

楓 — 元雑誌編集者 新緑に、赤字は入れない 校正で暮らす女が、締切と締切のあいだに自分で空けた平日、途中で何度も向きを変える電車と、その先の乗り物を乗り継いで山を登る晩である。 仕事の名前が変わらないまま値段だけが動く場面を、いちばん手前から書いていて、前の話を読んでいなくても分かります。
それでも選り分けるたび、選ばれなかった側に立っていた春のことを思い出しかける。
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舞台になった宿

『新緑に、赤字は入れない』の舞台は、強羅花扇。

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そのほかの話

この頁に五つある楓の話は、人物録の楓の頁から続けて読めます。

今夜の話の語り手 志乃

この状態に、ひとつ

降りてからの道のりと所要が宿ごとに書いてあるので、駅に着いてから調べ直す手が要りません。

『駅に着いても、まだ着かない宿』
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