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RECORD № 046

丸のついたページ

選ばなかった人生を説明しない、静かな肯定

子を持たない生き方を選んだ。その選択に至る道のりを、彼女は誰にも説明しない。説明しないことは、隠すことではない。他所の物差しで測られない生き方の練度を、静かに上げ続けている人。

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丸のついたページ

母の四十九日から、五か月が経った。実家の片付けは、まだ半分残っている。急いでいない。急ぐ理由がないから、急がないだけだ。

輪ゴムの引き出しの奥から、古い旅行雑誌の切り抜きが出てきた。温泉地の特集ページに、母の字で丸がついていた。小浜温泉。長崎。行ったという話は、聞いたことがない。行きたかったのか、ただ丸をつけただけなのか。聞ける相手は、もういない。

相続の手続きには、思ったより金がかかる。今回は、控えめな宿にした。理由を誰かに説明する必要はない。説明を求められる前に、決めておけばいいだけの話だ。

のぞみ、かもめ

東京駅からのぞみに乗り、博多で在来線特急に、武雄温泉で新幹線かもめに乗り換える。三度目の乗り換えの頃には、窓の外の緑が濃くなっていた。

諫早駅から、バスに揺られた。五十分。バスの窓から、段々畑と海が交互に見えた。名前を知らない木が続いた。知らなくていい、と思った。

画像はイメージです

國崎

宿に着くと、貸切風呂が複数あると聞いた。無料で、時間を気にせず使えるという。誰かと入る順番を待つ必要がない、というのは、思っていたより気が楽だった。

廊下で、すれ違った男がいた。何を持っていたかは、よく見なかった。見なかった、というだけのことだ。名前も知らないし、知る必要もない人だった。

檜の貸切風呂に入った。木の匂いが強かった。母がここに来ていたら、何と言っただろうと考えかけて、やめた。考えても、答えは出ない。出ない答えを、探さないことにした。

画像はイメージです

会席

夕食は部屋に運ばれた。地元の魚介と、島原半島の野菜を使った会席だった。品数は多くなかったが、一つ一つに手間がかかっているのが分かった。

親戚から、相続の件でメールが来ていた。返事は明日でいい。今日、返す必要はない。返さない、と決めることが、今の私にできる唯一の返事だった。

丸をつけただけ

朝、もう一度貸切風呂に入った。夜より湯気が濃く見えた。

十一時前に発って、諫早駅までバスで戻った。新幹線を乗り継いで、東京へ戻った。

車内で、雑誌の切り抜きをもう一度見た。丸がついているだけで、何も書かれていない。行きたかった理由も、行けなかった理由も、書かれていない。

説明はしない。理由も書かない。丸をつけていた、それだけを持ち帰った。持ち帰ったものを、輪ゴムの引き出しに、他のものと一緒にしまった。捨てるかどうかは、まだ決めていない。

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Field Notes

旅館 國崎

Overview

Region
長崎県雲仙市小浜町
Access
諫早駅から島鉄バスで小浜まで約50分。西九州新幹線かもめで諫早駅、または長崎空港から空港連絡バスで諫早駅
Price
中価格帯(1泊2食1名あたり実勢で約18,700円〜19,000円。離れ「やまぼうし」利用の会席プランは2名以上限定で1名あたり30,800円〜)

Facility

Room
本館 和室(7.5〜8畳、2〜3名向け)中心。離れ「やまぼうし」(露天風呂付き古民家、2〜8名)。全10室
Meal
夕食は部屋食が基本。地元魚介・島原半島の野菜を使った会席料理。朝食は本館1階の半個室等で提供

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 一軒宿
  • 日本秘湯を守る会
  • 全室数の少ない宿

向いている人間

  • 静かな環境で一人の時間を持ちたい人
  • 貸切風呂を気兼ねなく使いたい人
  • 控えめな価格で秘湯の雰囲気を求める人

向いていない人間

  • 高級ホテル的な均質なサービスを求める人
  • 少人数限定プラン(離れ)を一人で使いたい人

予約前の注意事項

夕朝食付きプランの一人利用可否は媒体によって案内が異なるため、予約前に宿へ直接確認が必要。離れ「やまぼうし」の会席プランは2名以上限定。門限23時。