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付箋
時刻表の北海道の頁に、付箋を挟んだままにしていた。五か月、そのままだった。今日、その付箋を沖縄の頁に移した。理由は、特にない。強いて言えば、隣の頁だったからだ。
「今度はどこ」と妻が聞いた。聞かれること自体が、珍しかった。「沖縄」と答えると、少し間があって、「紅型の柄のものを、何か一つ」と言われた。頼まれたのは、これが初めてだった。今まで、何も頼まれたことがなかった。
飛行機は、私一人で乗る。膝の悪い妻は、今回も控えると言った。控えたい、というのが本当の理由かどうかは、聞いていない。
空路
羽田から那覇まで、二時間四十五分。空の上では、することがあまりない。時刻表を出して、沖縄の頁を眺めた。従うつもりのない時刻表を、ただ眺める時間が、私は嫌いではない。

那覇空港からは、レンタカーで九十分だという。高速を降りると、道の両側にさとうきび畑が続いた。本州の畑とは、緑の色が違って見えた。
名嘉真荘
宿に着くと、案内された部屋に半露天風呂があった。海が見えた。名所として見るつもりはなかったが、見えてしまうものは仕方がない。

ロビーで、旅の途中らしい男を見かけた。若く、疲れた顔をしていた。声はかけなかった。かけたところで、何を言えばいいのか分からない。手には手帳があった。何かを書きつけているようだった。
夕食は、朝食付きのプランにした。会席の夕朝食付きは、少し値が張った。年金と貯えを、頭の中でまた計算しかけて、やめた。数えるのをやめる、というのが、この歳になってようやく身についた技術だった。
和朝食
朝、和朝食が出た。品数は多くなかったが、丁寧な仕事だった。妻がいたら、写真を撮ったかもしれない。私は撮らなかった。
食事の後、売店で紅型の柄の小物入れを見た。何色がいいか、妻に電話で聞こうかと思ったが、やめた。自分で選んで、それが違ったら、また来ればいい。また来る、という言い方が、自分でも少し意外だった。
紅型
那覇空港で、搭乗まで一時間あった。売店で、紅型の柄の小物入れを一つ選んだ。妻に頼まれたのは、これが初めてだった。頼まれる、というのが、いつからか、こんなに珍しいことになっていた。
時刻表を出して、次の頁を見た。次に行くとは決めていない。決めるのは、今日でなくていい。ただ、小物入れを買ったことだけは、今日決めたことだった。
