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誕生日の日付
母の誕生日は、去年から手帳に書くようになった。忘れないためではない、忘れそうになったからである。今年は、書いた日付の隣に、宿の名前も書いた。
離れの写真は、検索の途中で何度も出てきた。露天風呂付きの古民家だという。魅力は分かったが、母の足で棟から棟へ移動する距離が増えるのを、避けたかった。本館の和室にした。
行けば分かります
段差がどれだけあるか、電話で聞いた。行けば分かります、と言われた。数で返ってくると思って聞いた私のほうが、報告書の癖から出ていなかった。
諫早駅から島鉄バスで五十分、公立小浜病院前で降りた。運転手は、降りる客の順番を、乗った駅で覚えていたらしい。母の番になると、先にドアの位置を寄せていた。

宿までは徒歩三分だった。玄関で靴を脱ぐとき、仲居が母の靴の向きを、聞かずに直していた。玄関脇の待合の椅子で、客が一人、地図を広げて座っていた。広げたまま、しばらく動かなかった。
旬の会席
夕食は部屋に運ばれた。地元の魚介と島原半島の野菜だという。皿が運ばれる順番は、母より先に私のほうに置かれた。理由を聞くと、いつもそうしています、と仲居が答えた。

母は、誕生日に何かを望むということが、もう何年もないと言った。望まないことにしたのか、望むものがなくなったのか、私は聞かなかった。
先に伝票を取る
朝、会計のとき、母が財布を出そうとした。今年は先に、私が伝票を取った。母は、あら、とだけ言って、財布をしまった。
次の誕生日をどこにするかは、まだ決めていない。決めていない、と手帳に書いたら、それも予定になった。
