宿と小説の読みもの、余白
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チェックイン受付が、18時までの宿が多い。

十八時、という時刻から先に見ます。送迎のある宿を選ぶと、その時刻に間に合わせる旅程を組むことになります。迎えは何時から何時までか。逆算して、乗る列車が決まります。

列車は遅れます。予約の締切を過ぎていることもあります。経路の最後の一段が一本しかないと、そこが崩れたときに代わりがありません。

八軒は、その一段に道が二本あります。歩くか、駅で車を拾うか。どちらの所要も、宿の側から書かれています。

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歩いて届く

駅から宿までの徒歩の所要が、記録に書かれています。御所坊は有馬温泉駅から十分以内、草菴は荘原駅から約十分、亀の井別荘は由布院駅から約二十五分、万平ホテルは軽井沢駅から約三十分です。

静かな宿を探していくと、山あいか、渓谷か、島に行き着きます。そういう場所は駅から遠い。運転をしない人は、レンタカーが要ると書いてあった時点で候補から外すことになります。

外さなくていい宿があります。ただし落とし穴があります。「送迎あり」は、いつでも来てくれるという意味ではありません。三日前までの予約が要る宿、一日一往復しかない宿、当日の予約を受けない宿があります。

この軸で選ぶと決まるのは、着けるかどうかではなく、着く時刻を自分で決められるかどうかです。送迎の便に合わせるなら、その日の行程は宿の時刻表のほうで決まります。

強羅花扇は、早雲山駅のそばから宿専用のエレベーターが直結していて歩く距離そのものが短いですが、そこへ着くまでには箱根登山鉄道と登山電車とケーブルカーを順に乗り継ぐことになります。

この軸で選ぶと、間に合わなかった場合の手が、予約の前に分かっています。乗り換えのたびに時計を見て次に間に合うかを数える必要がなくなり、歩くか駅で車を拾うかを、改札を出て空の具合を見てから決められます。速度が落ちきったところに、選べる余地が一つ残っています。価格にも部屋の広さにも、この二本目の道の有無は書かれていません。

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分けたのは、送迎に乗らないときの手段が徒歩かタクシーかです。

駅で、車を拾って届く

徒歩の記載はなく、タクシーの所要が書かれています。湯之島館は下呂駅から約五分、つるやは芦原温泉駅から約十分、湯の澤鉱泉は山方宿駅から約八分で、いずれも駅前に車がありさえすれば十分足らずで着く距離です。短いことと、拾えることは別です。

向かないとき

駅前にタクシーが何台いるかは、行ってみないと分かりません。書かれているのは所要時間だけで、自分では運転をしない人にとっては、駅前で車を拾えるかどうかが、着いてから確かめるほかない条件として最後に一つ残ります。

歩けると書かれている距離のほうにも、荷物と天候は入っていません。亀の井別荘の徒歩約二十五分と万平ホテルの徒歩約三十分は、鞄を提げて雨のなかを行くのなら、書かれている数字よりも実際には重くなります。傘を持つ手がふさがり、靴の中が湿っていくぶんは、所要の欄に載りません。

湯の澤鉱泉は水郡線の本数が少なく、水戸での乗り継ぎを先に決めることになるので、最後の一段に替えの道があっても、その手前で詰まれば同じです。送迎の時間帯そのものも狭く、湯之島館は下呂駅からの無料送迎が十三時三十五分から十七時二十五分の要予約、つるやは十五時から十九時の事前予約制、草菴は迎えが十五時から十八時と決まっています。

チェックイン受付が十八時までの宿が多くあります。草菴、つるや、湯之島館、御所坊がそれにあたります。道が二本あることと、遅く着いてもいいことは別です。

ここに並ぶのは各宿の記録に書かれていたもので、送迎の条件は変わります。

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送迎を前提にするかどうかで、一覧は割れます。時刻に合わせて乗るほうなら迎えの車で、最後の道を行く宿、最初から自分で行くほうなら最後の道を、自分で行く宿があります。

乗り換えの数だけ

強羅花扇へは、新幹線で小田原、箱根登山鉄道で箱根湯本、スイッチバックを三度挟む登山電車で強羅、ケーブルカーで早雲山と、乗り物が四度替わります。この宿へ来た楓の記録は、朝の九時に赤鉛筆を三本削るところから始まります。フリーの校正者になって三年、机に向かう前の手順でこれだけは変わらない。三本に根拠はない。編集部にいたころ自分の鉛筆はいつも誰かに二本借りられていたから、三本置くと決めた——理由と呼べるほどのものではない、と本人が書いています。その人が四度乗り換えて、乗り換えの数だけ、遠くへ行ける気がしたと書きます。距離ではなく、回数のほうが効いています。

使わなかった道

替えの道は、たいてい使われません。送迎に間に合えば、徒歩二十五分という記載は、読んだだけで終わります。

それでも、その二十五分があると分かっているのと、分からないのとでは、列車のなかで膝の上に置いた鞄の重さが違います。

使わなかった道は、所要時間に残りません。残るのは、間に合わなくてもよかった、という側だけです。

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