送迎の時刻を、外しても着ける宿
送迎の便に間に合わなくても、歩くか、駅で車を拾うかの道が残っている宿です。間に合わなかった場合の手が予約の前に分かっているので、乗り換えのたびに時計を見て、次に間に合うかを数えなくて済みます。
8軒。一人の枠を最後に確かめたのは、2026年8月25日から9月22日のあいだです。
一人の部屋の知らせ
一人で取れる部屋が出たとき、一通お知らせします。
それ以外のメールは届きません。
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チェックイン受付が、18時までの宿が多い。
十八時、という時刻から先に見ます。送迎のある宿を選ぶと、その時刻に間に合わせる旅程を組むことになります。迎えは何時から何時までか。逆算して、乗る列車が決まります。
列車は遅れます。予約の締切を過ぎていることもあります。経路の最後の一段が一本しかないと、そこが崩れたときに代わりがありません。
八軒は、その一段に道が二本あります。歩くか、駅で車を拾うか。どちらの所要も、宿の側から書かれています。
歩いて届く
駅から宿までの徒歩の所要が、記録に書かれています。御所坊は有馬温泉駅から十分以内、草菴は荘原駅から約十分、亀の井別荘は由布院駅から約二十五分、万平ホテルは軽井沢駅から約三十分です。
- 陶泉 御所坊 兵庫県神戸市北区有馬町(有馬温泉)
有馬温泉駅から徒歩10分以内。
一人 六万円台前半〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRExpediaで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 28 話
引き継ぎノートの三十八ページ目から書き始めた人がいる。— 千鶴(宿の仲居)『茶色い湯の、名の由来』
会津の温泉宿に勤めている。続けての休みが出た日に、よその宿へ客として泊まりに行く。
- 湯宿 草菴 島根県出雲市斐川町(湯の川温泉)
荘原駅から徒歩約10分。徒歩の所要が記録にあります。
一人 三万円台後半〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRじゃらんnetで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 24 話
十年使った屋号を三月末に捨てた人が、ここへ来た。— 志乃(フリーランスデザイナー)『移された家の、二度目の場所』
長く窓口だった人の異動で、仕事の筋が一つ細くなった。見積もりの行は、いまは作りながら自分で削っている。
- 亀の井別荘 大分県由布市湯布院町川上(由布院温泉)
由布院駅から徒歩約25分。
一人 八万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PR一休.comで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 20 話
手帳の語彙が十で止まっている人が、ここへ来た。— 黒瀬慧(編者)『非構造化データ、十一語目』
社員六人の会社で、決められない企業のために、決めるための根拠を作って売っている。旅館だけは、事業にしないと決めている。
- 万平ホテル 長野県北佐久郡軽井沢町
軽井沢駅から徒歩約30分。
東京から約1.5時間 一人 七万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRExpediaで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 3 話
朝の五時に装丁の一式を納品した人が、ここへ来た。— 志乃(フリーランスデザイナー)『憶えていられる分だけ』
長く窓口だった人の異動で、仕事の筋が一つ細くなった。見積もりの行は、いまは作りながら自分で削っている。
- 強羅花扇 神奈川県足柄下郡箱根町(強羅温泉)
強羅駅から徒歩。乗り物が四度替わります。一人での宿泊は受けていません。
一人 四万円台後半〜(2名1室の1名分・夕朝食付)
小説を読む PRExpediaで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 1 話
赤鉛筆を三本削るところから始まる記録がある。— 楓(元雑誌編集者)『新緑に、赤字は入れない』
いまはフリーの校正者。機械がかけた校正に追記を足す仕事を減らせないまま、単価がその半分に近い文芸のゲラも受けている。
静かな宿を探していくと、山あいか、渓谷か、島に行き着きます。そういう場所は駅から遠い。運転をしない人は、レンタカーが要ると書いてあった時点で候補から外すことになります。
外さなくていい宿があります。ただし落とし穴があります。「送迎あり」は、いつでも来てくれるという意味ではありません。三日前までの予約が要る宿、一日一往復しかない宿、当日の予約を受けない宿があります。
この軸で選ぶと決まるのは、着けるかどうかではなく、着く時刻を自分で決められるかどうかです。送迎の便に合わせるなら、その日の行程は宿の時刻表のほうで決まります。
強羅花扇は、早雲山駅のそばから宿専用のエレベーターが直結していて歩く距離そのものが短いですが、そこへ着くまでには箱根登山鉄道と登山電車とケーブルカーを順に乗り継ぐことになります。
この軸で選ぶと、間に合わなかった場合の手が、予約の前に分かっています。乗り換えのたびに時計を見て次に間に合うかを数える必要がなくなり、歩くか駅で車を拾うかを、改札を出て空の具合を見てから決められます。速度が落ちきったところに、選べる余地が一つ残っています。価格にも部屋の広さにも、この二本目の道の有無は書かれていません。

分けたのは、送迎に乗らないときの手段が徒歩かタクシーかです。
駅で、車を拾って届く
徒歩の記載はなく、タクシーの所要が書かれています。湯之島館は下呂駅から約五分、つるやは芦原温泉駅から約十分、湯の澤鉱泉は山方宿駅から約八分で、いずれも駅前に車がありさえすれば十分足らずで着く距離です。短いことと、拾えることは別です。
- 下呂温泉 湯之島館 岐阜県下呂市湯之島(下呂温泉)
下呂駅から徒歩圏ではない高台にあります。
東京から約3時間 一人 四万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRExpediaで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 12 話
名古屋二日目の終演が二十時十四分だった人がいる。— 悠真(IT企業勤務・推し活に生きる会社員)『供給のない建物』
追いかけていたグループは活動休止のままで、ファンどうしのやりとりだけが残っている。金額はいまも、現場何回ぶんかに換算して数える。
- 越前あわら温泉 つるや 福井県あわら市温泉(あわら温泉)
あわら湯のまち駅から。
一人 五万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRじゃらんnetで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 25 話
用もないのに元の勤務先へ足が向いた人が、ここへ来た。— 克彦(早期退職した元管理職)『名前の残る仕事』
同じ会社に四十二年いて、課長が十一年、部長が七年だった。電車で一時間半のところに八十代の母が一人でいて、出かける段取りは引き受ける。
- 湯の澤鉱泉 茨城県常陸大宮市(奥久慈)
水戸での乗り継ぎを先に決めることになります。
東京から約3時間 一人 一万円台後半〜(1名1室・夕朝食付)
小説を読む PRじゃらんnetで空室を見る(外部サイトが新しいタブで開きます)小説 第 56 話
予定を書く欄に、自分の名前だけを書くようになった人がいる。— 美咲(介護と仕事を両立する会社員)『名前の下に、一行』
母が施設に入ってから、面会は週に一度、土曜の午後になった。面会と面会のあいだに空いた平日に、一泊だけ出る。
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向かないとき
駅前にタクシーが何台いるかは、行ってみないと分かりません。書かれているのは所要時間だけで、自分では運転をしない人にとっては、駅前で車を拾えるかどうかが、着いてから確かめるほかない条件として最後に一つ残ります。
歩けると書かれている距離のほうにも、荷物と天候は入っていません。亀の井別荘の徒歩約二十五分と万平ホテルの徒歩約三十分は、鞄を提げて雨のなかを行くのなら、書かれている数字よりも実際には重くなります。傘を持つ手がふさがり、靴の中が湿っていくぶんは、所要の欄に載りません。
湯の澤鉱泉は水郡線の本数が少なく、水戸での乗り継ぎを先に決めることになるので、最後の一段に替えの道があっても、その手前で詰まれば同じです。送迎の時間帯そのものも狭く、湯之島館は下呂駅からの無料送迎が十三時三十五分から十七時二十五分の要予約、つるやは十五時から十九時の事前予約制、草菴は迎えが十五時から十八時と決まっています。
チェックイン受付が十八時までの宿が多くあります。草菴、つるや、湯之島館、御所坊がそれにあたります。道が二本あることと、遅く着いてもいいことは別です。
ここに並ぶのは各宿の記録に書かれていたもので、送迎の条件は変わります。

送迎を前提にするかどうかで、一覧は割れます。時刻に合わせて乗るほうなら迎えの車で、最後の道を行く宿、最初から自分で行くほうなら最後の道を、自分で行く宿があります。
乗り換えの数だけ
強羅花扇へは、新幹線で小田原、箱根登山鉄道で箱根湯本、スイッチバックを三度挟む登山電車で強羅、ケーブルカーで早雲山と、乗り物が四度替わります。この宿へ来た楓の記録は、朝の九時に赤鉛筆を三本削るところから始まります。フリーの校正者になって三年、机に向かう前の手順でこれだけは変わらない。三本に根拠はない。編集部にいたころ自分の鉛筆はいつも誰かに二本借りられていたから、三本置くと決めた——理由と呼べるほどのものではない、と本人が書いています。その人が四度乗り換えて、乗り換えの数だけ、遠くへ行ける気がしたと書きます。距離ではなく、回数のほうが効いています。
使わなかった道
替えの道は、たいてい使われません。送迎に間に合えば、徒歩二十五分という記載は、読んだだけで終わります。
それでも、その二十五分があると分かっているのと、分からないのとでは、列車のなかで膝の上に置いた鞄の重さが違います。
使わなかった道は、所要時間に残りません。残るのは、間に合わなくてもよかった、という側だけです。
一人の部屋の知らせ
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