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RECORD № 044

予定ではなく、名前で書く

罪悪感ごと荷物を持ったまま、それでも休むこと

母の介護と仕事のあいだで、旅は一泊二日が限界。母を預けることへの後ろめたさに、まだ名前を付けられずにいる。自分の疲れを口にする言葉を、彼女は長いあいだ持っていない。

美咲という語り手について →

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お姉さん

施設から電話があった。母が今日もまた、職員を「お姉さん」と呼んでいた、という報告だった。悪い知らせではない。ただの経過報告。それでも切った後、しばらく携帯を握ったままでいた。

鳥越の宿から帰って、五か月が経った。面会は週に一度のまま変わっていない。増やそうと三度考えて、三度とも増やしていない。理由は、シフト。理由は、書類。理由は——理由はいくつもあるが、どれも本当の理由ではない気がする。

前に一度、佐賀の宿に一泊した後、手帳に自分の予定を書くと決めた。決めたはずの欄は、今月も母の通院と、施設への書類提出で埋まっている。私の予定は、また消えた。消した覚えはないのに、消えている。

渓流沿いの一軒宿の記事を見た。全室が離れになっているという。離れ、という言葉に、少し惹かれた。

のぞみ、リレー、かもめ

東京駅からのぞみに乗る。博多で在来線特急リレーかもめに乗り換える。さらに武雄温泉で、対面のホームを渡ってかもめに乗り換える。乗り換えが三回。乗り換えるたびに、携帯の着信を確認する癖が出る。施設からは、何も来ていない。

西九州新幹線は短い区間しか走らない。乗ってすぐ着く感覚だった。乗り換えの多さに疲れる暇もなかった。

画像はイメージです

椎葉山荘

嬉野温泉駅から車で十五分、山あいに入っていく。渓流の音が、車を降りた時点でもう聞こえていた。

離れの部屋に案内された。窓の外を、椎葉川が流れている。せせらぎ、というのだと思う。言葉にすればそれだけだが、聞いているとなぜか、施設の廊下の物音より静かに感じた。

画像はイメージです

廊下で、腕時計を見ている男とすれ違った。急いでいる様子ではなかった。時刻を確認して、また歩き出しただけだった。着信を待つように携帯を見る自分とは、見方が違う気がした。手には使い込まれた手帳があった。何かを控えているようだった。

椎葉会席

夕食は部屋に運ばれた。地元の食材を使った会席だという。品数が多く、一つ一つに時間がかかった。急かされない食事は、久しぶりだった。

食べながら、携帯を見た回数を数えていないことに気づいた。数えていない、ということに気づいた時点で、また一回見た。それでも、いつもより少なかった。

私、とだけ

朝、渓流の音で目が覚めた。夜より水が澄んで見えた。光の加減だと思う。

十一時前に発って、駅まで送ってもらった。西九州新幹線から在来線特急、新幹線と乗り継いで、東京へ戻った。

車内で手帳を開いた。来月の欄に、何か書こうとして、「予定」と書きかけてやめた。予定、と書くと消しやすい。母の通院、施設の書類、それらと同じ枠に見えてしまう。

代わりに、自分の名前だけを書いた。美咲、とだけ。何をするかは、まだ決めていない。決めていないことが、今回は不安ではなかった。

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Field Notes

大正屋 椎葉山荘

Overview

佐賀県
Region
佐賀県嬉野市嬉野町(大字岩屋川内)
Access
西九州新幹線かもめ嬉野温泉駅から車で約15分(タクシーは台数が少なく事前配車推奨。宿の無料送迎は要事前予約)
Price
中〜高価格帯(1泊2食1名あたり目安27,500円〜48,950円。プランにより変動)

Facility

Room
全客室が離れ風の造り。全20室(一休.com記載)。川沿い離れ・メゾネット・バリアフリー・和洋室など6タイプ
Meal
夕食は地元産食材を使う会席「椎葉会席」、朝食は和洋バイキング(約30品目)

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 一軒宿
  • 全室離れ
  • 部屋食の宿

向いている人間

  • 一人で静かに過ごしたい人
  • 会話の少ない時間を必要としている人
  • 渓流のせせらぎなど、言葉になりにくい感覚に浸りたい人

向いていない人間

  • 賑やかな温泉街の雰囲気を楽しみたい人
  • 駅からのアクセスに公共交通のみを使いたい人(タクシー配車に事前手配が要る場合がある)

予約前の注意事項

嬉野温泉駅からのタクシーは台数が少なく、事前の電話配車が必要な場合がある。宿の無料送迎は事前予約制。一人泊時の正確な室料はプラン・時期により変動するため予約時に要確認。