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預ける、という言葉
四回、預けた。
四回とも、書類に日付を書いて、荷物に名前を書いて、それから自分の切符を取った。順番はいつも同じだった。自分の切符が最後になる。
送迎という言葉が、私の生活には二つある。母を迎えに来る車と、駅から宿へ行く車。同じ言葉なのに、片方は母を連れていき、片方は私を連れていく。
一回目は、それに気づいて、少し立ち止まった。
四回目は、気づいたまま、乗った。
預けた日の数だけ、私も泊まっている。それは、引き算ではない。
引き算ではない、と書けるようになるまでに、四回かかった。
四つ
石葉(神奈川・湯河原)
一回目。荷物がいちばん軽くて、いちばん重かった。持ち物の少なさが、そのまま留守の長さだった。
油性ペンのインクが布に滲んで、母の名前が少し太る。
花巻温泉 佳松園(岩手・花巻温泉)
二回目。ここは食事が部屋に来る。貸切風呂が四つある。廊下に出る回数が少ない宿は、携帯を持ったままでいられる。
そういう理由で宿を選んでいることを、しばらく人に言わなかった。
鳥越の宿 三楽園(富山・庄川温泉郷)
三回目。湯が二種類ある宿だった。二種類あると、二回入ることになる。二回ぶんの時間、何もしていなかった。
耳が、鳴らない携帯を待っていた。
大正屋 椎葉山荘(佐賀・嬉野温泉)
四回目。全部の客室が離れ風の造りで、川沿いに建っている。
宿帳に、予定を書く欄はなかった。名前だけを書いた。
連絡が、つくこと
宿を選ぶとき、私には一つだけ、他の人と違う条件がある。
電波が届くこと。
静かな宿を探すと、たいてい山の奥に行き着く。山の奥は、圏外のことがある。渓流沿いの離れは、母屋では通じても客室では通じない、ということがある。
だから私は、「電話がつながらない宿」を勧める記事を読むのをやめた。
つながらないほうがいい人がいる。つながらないと困る人もいる。同じ静けさを、別の理由で必要としている。
四軒とも、つながった。それを先に確かめてから取った。確かめる手間は、休みの一部だと思っている。
それでも、書く
罪悪感は、四回目でも消えなかった。
消えなくてよかった、とは思わない。消えてほしいとも、もう思わない。
ただ、手帳の書き方が変わった。
最初は「母・ショートステイ」と書いていた。いまは、その下にもう一行、自分の行き先を書く。書いても、消さない。
——でも、いい。それだけのことだ。
それだけのことに、四回かかった。
