宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 115

名古屋で降りない

他人の物語を燃料にして、自分の予定表の空白とどう向き合うか

予定表が埋まっているうちは、何も考えなくていい。遠征と配信で週末は先まで塞がっている。空白があると、もったいない、と思う。その「もったいない」が何を指しているのかは、まだ考えないことにしている。

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四日

班のグルチャが、四日止まってる。

誰も何も書いてない。

活動休止から、一年半を過ぎた。供給がないと、話すことがない。話すことがないのに、班は残ってる。二十三人。抜けた人はまだ二人。

木曜の夜、その二人目が抜けた。抜けるとき、何も書かなかった。人数の表示が二十四から二十三に変わって、それだけだった。

俺は「おつかれさまでした」を打って、送らずに消した。送り先がない。抜けた人にはもう届かない。

予定表を開いた。青は去年の三月で止まってる。緑も。灰色の会社だけが、毎週きれいに並んでる。

十二月の頭に、二連休がある。

三重に温泉があるのを、初めて知った。一泊、一万五千六百七十五円。現場換算だと、遠征一回の半分もいかない。

名古屋で乗り換える、と書いてあった。

乗り換え

こだまじゃなくてのぞみに乗った。急ぐ用はない。速いほうが安かったわけでもない。

名古屋のホームに降りた。遠征のとき、俺はいつもここで降りて、改札を出て、地下鉄に乗る。会場は決まってて、道も決まってる。

今日は改札を出ない。案内板の近鉄の矢印に従って、階段を下りて、また上がった。

名古屋のホームは、降りるための場所だった。今日は、渡るための場所だった。

画像はイメージです

近鉄は、四日市で乗り換えて、そこから四両になった。窓の外に山が出てくる。鈴鹿の山だと、あとで宿の人が言った。十二月の頭で、上のほうだけ色が抜けている。

終点で降りた。改札の外に、宿の車が停まっていた。着く時刻は、予約のときに伝えてある。

通知は、名古屋を出てから一件も来ていない。二回、画面を点けて確かめた。圏外じゃない。来ないだけ。

鹿の湯

宿の紙に、湯の由来が書いてあった。傷ついた鹿が湯に来たので、鹿の湯と呼ばれるようになった、と。呼ばれるようになった、と書いてある。それ以上のことは書いていない。

千三百年前だそうだ。俺の推しの活動歴は、九年だった。九年でも長いほうだと思ってた。

湯は熱かった。熱いのに、上がるとすぐ冷えない。冬の湯はこうなのか、と思って、比べる冬の湯を持ってないことに気づいた。

湯から上がって、窓のところで髪を乾かした。外はもう暗い。山の稜線だけが、空より少し濃い色で残ってる。

夕食は下の階だった。膳。皿が一枚ずつ来るのじゃなくて、最初から全部並んでる。並んでるほうが、俺は落ち着く。何がいつ来るか分かってるほうが、落ち着く。

画像はイメージです

離れた席に、一人で食べてる男がいた。膳の横に黒い手帳を置いて、食べる合間に一度だけ開いて、すぐ閉じた。開いてる時間が短くて、何を見たのかは分からない。

二十三人

部屋に戻って、グルチャを開いた。まだ止まってる。五日目。

スクロールした。去年の三月まで戻ると、一日に百件以上ある。写真、実況、感想、次の現場の待ち合わせ。読んでると速い。当時は、これを毎日読んでた。読むのが生活だった。

読み返して、俺は一つも思い出せない現場があることに気づいた。行ったはずなのに、写真を見ても出てこない。埋めるために入れた枠だった。

窓を開けた。冷たい。山の音は、しない。川の音も、車の音もしない。音がしないというのを、俺は初めてちゃんと聞いた。

一行

朝、湯にもう一度入って、送迎の車で駅に戻った。

近鉄の中で、写真を一枚撮った。窓から見えた山で、上のほうだけ色が抜けてるやつだ。

グルチャには送らなかった。班の一人に、個別で送った。三年前、はじめての遠征で新幹線の席が隣だった人。あれから現場では何度も会ってるけど、二人で話したことはたぶん一度もない。

文面は打たなかった。写真だけ送った。

名古屋で新幹線に乗り換えた。行きと同じ階段を、逆に上がって下りた。ホームで、通知が来た。班のグルチャじゃない。個別のほうだった。

開くのを、東京に着くまで待った。待っている自分が、少しおかしかった。

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Field Notes

鹿の湯ホテル

Overview

三重県
Region
三重県三重郡菰野町(湯の山温泉)
Access
名古屋駅から近鉄で四日市を経由し、湯の山温泉駅まで約1時間。大阪難波駅からは約2時間30分。湯の山温泉駅から宿まで無料の送迎があり、到着時刻を宿へ連絡しておく。車は新名神高速道路・菰野ICから10分
Price
予約サイトで確かめた一万円台半ば〜(1名1室・条件不明) 公開の情報から中価格帯(Reluxの1名1室で一万円台半ば〜。プランによって一万円台半ば・一万円台後半・二万円台前半・二万円台半ば と分かれる)

Facility

Room
大人1名・1室の検索で部屋5件・プラン9件(2名の検索では部屋12件・プラン10件)
Meal
食事の付くプランと付かないプランがある。予約の段階で選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 温泉街の宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(大人1名・1室の検索で部屋5件・プラン9件が表示される)
  • 1泊を1万円台半ばに収めたい一人客
  • 名古屋から1時間で山のほうへ入りたい人

向いていない人間

  • 到着の時刻を決めずに動きたい人(送迎は到着時刻を先に伝えておく)
  • 駅から歩いて着きたい人
  • 海の見える宿を求める人(鈴鹿連山のふもとにある)

予約前の注意事項

湯の山温泉駅からの送迎は無料だが、到着時刻を宿へ連絡しておくこと。名古屋からは近鉄で約1時間、四日市で乗り継ぐ。1名で取れる部屋は5件で、2名のときの半分以下。料金と食事条件はプランで分かれるので、予約の段階で確かめること。

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