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圏外
携帯電話は圏外です、と予約の頁の部屋の欄にあった。※山奥に位置するため、と理由が先に立っていて、ご注意ください、で終わっている。
施設の番号を画面に出して、指を止めた。母の面会は土曜で、次の土曜まではまだある。そのあいだの平日が二日、空いた。二日のうち一日を移動と宿に使うと、残りは一日になる。一日あれば、洗濯はできる。
夜のあいだ、私に連絡がつかない。つかない、というより、掛けても鳴らない。掛ける側には、それが分からない。
番号は掛けずに消した。前の日でいい。前の日に言えば、同じことだ。——でも、言う。
八畳
一名にして、プランが五件出た。二名にしても、五件だった。
五件とも、夕食と朝食が付いている。食事の付かないものは、一件も出ない。
本館の部屋だけを、安いほうから見た。八畳が二万六千二百円で、いちばん下にある。十二畳はその五百五十円上。十畳はさらに上。六畳は、二万八千四百円だった。
六畳がいちばん狭くて、いちばん高い。理由は書いていない。
二名にすると、六畳は一覧から消えた。
八畳を取った。
十三時四十五分
前の日に電話をして、明日の夜は繋がりませんと伝えた。伝えると、伝えたことが一つ増えただけになった。
送迎は時期で発着駅が変わって、九月なら青森発、新青森駅の東口を十三時四十五分に出るのだが、十一月十九日からは八戸発になりますと、同じ欄の下のほうに、括弧の中の要事前予約と並べて書いてある。

新青森で降りて、東口に立った。車は十三時四十五分に来た。
山に入った。窓の外は同じ緑が続いて、どこで変わったのかは分からない。画面の左上の棒が、三本から一本になり、それから消えた。
下の湯
露天は無いと欄にあった。湯は二つあると宿が書いていた。五時半から八時半まで男女の浴場が入れ替わる、とも同じ欄にある。

下の湯は三十八度だと宿が書いていた。入ると、湯のほうが体温より低いのか高いのか、しばらく分からなかった。首まで沈めて、動かないでいた。足の下から、ぽこ、と上がってくる。間隔を数えようとしたが、揃っていない。数えるのはやめた。ぽこ、は続いた。
戻る途中の廊下で、掌で髪の水を押し出す音がした。男の人が壁のほうを向いて、耳のうしろを二度拭いていた。二度目のほうが長かった。私のタオルは、もう水を吸わない。
歯ブラシは置いてあったが、櫛は無かった。髪はどうせ乾かないので、同じことだった。
部屋に戻った。携帯は圏外のままで、時刻だけが動いていた。
どこかで、製氷機が氷を落とす音がした。ときどき鳴って、そのたびに数が違う。
十二月
九時四十五分の車で山を下りた。
帰りの新幹線で、手帳を出した。土曜のところは、九月も十月も同じ字で埋まっている。
十二月の頁をひらいて、土曜でない日をひとつ選んで、八戸、と書いた。
書いた字は、まわりの字より少し大きい。
