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見積もり
初校を返した週に、次の打診が二件来た。
一件は自動化された校正への追記で、単価は前と同じだった。もう一件は文芸の再校で、単価はその半分に近い。半分に近い、は言い過ぎだ。五割五分、が正確だ。
追記のほうは、機械が拾った箇所に「これは直さなくていい」と書き添える仕事である。拾うのは機械で、拾いすぎたものを外すのが私だった。外した数で単価が決まるわけではないので、外す数が多い月ほど、時給に直すと下がる。
どちらにも返事をしていない。返事をしないでいるあいだ、二件は同じ重さで机の上にある。重さが同じなのは、私がまだ量っていないからだった。
締切と締切のあいだが四日空いた。近くて安いところを探す条件は、前の一泊から変わっていない。四日のうち一日を移動と宿に使うと、残りは三日になる。三日で三百枚は見られる。見られる、は言い過ぎだ。三日で三百枚を通せる日もある、が正確だ。
道の名
千葉の宿を見ていた。
一名にして、プランが十二件出た。二名にすると十四件になる。二つしか違わない。
道順の欄を読んだ。同じ頁のなかで、同じ道の名が二通りに書いてあった。片方は一字ちがっていた。
指が動いて、止まった。これは私のゲラではない。赤を入れる場所がない。
その一字は、自動の校正にかければ消えるものだった。私が受けようとしている一件は、その消す仕組みに注をつける仕事だった。
朝食の付くほうを取った。食事のないものとの差は千六百五十円で、それだけの理由で決めた。
終点
木更津で久留里線に乗り換えた。
宿の欄は、着く駅のことを「終点」と書き添えていた。書き添えなくても駅名で足りるのに、書いてある。

終点で降りた。四月の平日で、降りたのは私を入れて三人だった。十三分と書いてあった道を歩く。荷物があるぶん、少し長かった。連絡すれば迎えに来ると書いてあったのを、電車のなかで二度読んで、結局しなかった。
階段
エレベーターはありません、と宿は先に書いていた。客室は二階と三階です、とも。
階段の途中で、湯から上がってきた男とすれ違った。手に折り畳んだ紙を持っている。折り目は真ん中ではなく、三分の一のところに付いていた。すれ違いざま、その折り目が一度だけ鳴った。

部屋に風呂はない。ないと書いてあったとおりだった。一階まで降りて湯に入り、また上がった。夜通し入っていいと書いてあったので、寝る前にもう一度降りた。降りるたびに、段の数が合わない気がしたが、数えてはいない。
取った部屋は、窓の外が庭のほうだった。湖の見える部屋は千百円上で、その千百円は出さなかった。庭は、暗くなるのが早い。暗くなる順番に見出しを付けるとしたら何になるかを少し考えて、考えている自分がおかしくて、窓を閉めた。
浴衣は丈が余った。腰のところで二度折って、帯で押さえた。折った側は、朝までそのままでいてくれた。
二百十二枚目
朝食を食べて、十時前に出た。

帰りの車内で、安いほうの一件に先に返事を書いた。書いて、送った。もう一件は、まだ開いていない。
机の端には、初校の二百十二枚目が置いたままになっている。誤字ではないところに線を引いた一枚で、返す束からは抜いてあった。少し反っている。
反ったまま、二百十二枚目のところへ戻した。束は、そこだけ少し厚い。
