宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 126

二通りに書いてあった

仕事を機械に明け渡したあと、何が自分に残るか

長く雑誌の編集をしていた。その仕事の大半は、いま機械がやっている。フリーの校正者になって、ゲラの角を撫でて直す癖だけが手に残った。編集者だった自分との距離を、まだ測りかねている。

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見積もり

初校を返した週に、次の打診が二件来た。

一件は自動化された校正への追記で、単価は前と同じだった。もう一件は文芸の再校で、単価はその半分に近い。半分に近い、は言い過ぎだ。五割五分、が正確だ。

追記のほうは、機械が拾った箇所に「これは直さなくていい」と書き添える仕事である。拾うのは機械で、拾いすぎたものを外すのが私だった。外した数で単価が決まるわけではないので、外す数が多い月ほど、時給に直すと下がる。

どちらにも返事をしていない。返事をしないでいるあいだ、二件は同じ重さで机の上にある。重さが同じなのは、私がまだ量っていないからだった。

締切と締切のあいだが四日空いた。近くて安いところを探す条件は、前の一泊から変わっていない。四日のうち一日を移動と宿に使うと、残りは三日になる。三日で三百枚は見られる。見られる、は言い過ぎだ。三日で三百枚を通せる日もある、が正確だ。

道の名

千葉の宿を見ていた。

一名にして、プランが十二件出た。二名にすると十四件になる。二つしか違わない。

道順の欄を読んだ。同じ頁のなかで、同じ道の名が二通りに書いてあった。片方は一字ちがっていた。

指が動いて、止まった。これは私のゲラではない。赤を入れる場所がない。

その一字は、自動の校正にかければ消えるものだった。私が受けようとしている一件は、その消す仕組みに注をつける仕事だった。

朝食の付くほうを取った。食事のないものとの差は千六百五十円で、それだけの理由で決めた。

終点

木更津で久留里線に乗り換えた。

宿の欄は、着く駅のことを「終点」と書き添えていた。書き添えなくても駅名で足りるのに、書いてある。

画像はイメージです

終点で降りた。四月の平日で、降りたのは私を入れて三人だった。十三分と書いてあった道を歩く。荷物があるぶん、少し長かった。連絡すれば迎えに来ると書いてあったのを、電車のなかで二度読んで、結局しなかった。

階段

エレベーターはありません、と宿は先に書いていた。客室は二階と三階です、とも。

階段の途中で、湯から上がってきた男とすれ違った。手に折り畳んだ紙を持っている。折り目は真ん中ではなく、三分の一のところに付いていた。すれ違いざま、その折り目が一度だけ鳴った。

画像はイメージです

部屋に風呂はない。ないと書いてあったとおりだった。一階まで降りて湯に入り、また上がった。夜通し入っていいと書いてあったので、寝る前にもう一度降りた。降りるたびに、段の数が合わない気がしたが、数えてはいない。

取った部屋は、窓の外が庭のほうだった。湖の見える部屋は千百円上で、その千百円は出さなかった。庭は、暗くなるのが早い。暗くなる順番に見出しを付けるとしたら何になるかを少し考えて、考えている自分がおかしくて、窓を閉めた。

浴衣は丈が余った。腰のところで二度折って、帯で押さえた。折った側は、朝までそのままでいてくれた。

二百十二枚目

朝食を食べて、十時前に出た。

画像はイメージです

帰りの車内で、安いほうの一件に先に返事を書いた。書いて、送った。もう一件は、まだ開いていない。

机の端には、初校の二百十二枚目が置いたままになっている。誤字ではないところに線を引いた一枚で、返す束からは抜いてあった。少し反っている。

反ったまま、二百十二枚目のところへ戻した。束は、そこだけ少し厚い。

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Field Notes

亀山温泉ホテル

Overview

千葉県
Region
千葉県君津市豊田(亀山温泉)
Access
JR内房線の木更津駅で久留里線に乗り換え、終点の上総亀山駅から徒歩13分・車2分。宿の欄には東京・浜松町から高速バスが1時間に1本とある。車はアクアライン経由で都心から90分、駐車場は無料
Price
予約サイトで確かめた一万円台半ば〜(1名1室・朝食付) 2名1室での実測一万円台前半〜(2名1室の1名分・朝食付) 公開の情報から中価格帯(じゃらんの大人1名・1室で素泊まり一万円台前半〜、朝食付き一万円台半ば〜、夕朝食付き二万円台半ば〜)

Facility

Room
じゃらんの施設情報で総部屋数14室(和室10・和洋室4)。大人1名・1室の検索でプラン12件、2名の検索では14件。同じ朝食付きでも、庭に面した部屋は¥14,300、湖の見える部屋は¥15,400と¥1,100違う
Meal
食事の付かないプラン、朝食だけのプラン、夕朝食の付くプランが1名でも出る。予約の段階で選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 湖畔の宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(1名でプラン12件、2名の14件とほとんど変わらない)
  • 1泊を1万円台前半に収めたい一人客(素泊まり¥12,650・朝食付き¥14,300)
  • 東京から電車でも高速バスでも行ける近さで探している人

向いていない人間

  • 階段を使いたくない人(宿がエレベーターは無く客室は2階3階と書いている)
  • 部屋で風呂に入りたい人(宿が客室に風呂は無いと書いている)
  • 夕食も宿でとって1万円台に収めたい人(1名の夕朝食付きは¥23,100から)

予約前の注意事項

宿が自分で書いている注意が二つある。エレベーターが無く客室は2階と3階で階段を使うこと、客室に風呂が無いこと。風呂はじゃらんの施設情報で露天が混浴1つ(貸切可)、内湯が男女各1つ。9月の空室カレンダーを大人1名で開くと×の日がいくつもあり、同じ日を2名で開くと空きが出ることがある(2026-09-10の実測では13日・26日・30日がそうだった)。一人で取れる日は、二人で取れる日より少ない。料金は読むたびに動くので、予約の画面で確かめること。

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