宿と小説の読みもの、余白
SAKE

筑紫野の大賀、八女の高橋商店

分類できないものを、分類できないまま持てるか

三十四歳。港区白金台に一人で住む。データ分析の会社を経営し、あらゆる対象を変数とパターンに置き換えて生きてきた。旅館だけは、事業にしないと決めている。出張の合間に行き先を毎回変えながら宿を巡り、そこですれ違った人々の話を、この場所に集めている。

黒瀬慧という語り手について →

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庭園の宿

名前だけが残って、中身のほうが入れ替わっていくものがある。筑紫野市の二日市温泉にある慶応元年(一八六五年)創業の大丸別荘は、三千五百坪の庭園に、大正・昭和・平成それぞれの時代の建物が分かれて建つ。時代の違う建物を歩いて渡ると、同じ敷地の中で年号だけが変わっていく。建物は代替わりし、庭園は動かない。泊まった人が覚えて帰るのは、寝た建物ではなく、そこへ行くまでに抜けた庭のほうになる。

名を継いだ蔵、継がなかった蔵

瓶の名を見て土地を思い出すかどうかは、蔵がどちらを選んだかで決まっている。土地の名を継いだ蔵と、継がなかった蔵が、同じ福岡県にある。

大賀酒造は筑紫野市二日市中央にあり、代表銘柄は筑紫野という。宿と同じ筑紫野市の名が、そのまま銘柄になっている。瓶を買うと、名を見るたびに土地を思い出す。この蔵は延宝元年(一六七三年)創業で、福岡県で最も古い酒蔵でもある。宿と同じで、先に名のほうが立ち、中身は代ごとに入れ替わってきた。だから一本を選ぶとき、選んでいるのはいま瓶に入っている中身と、その名が背負ってきた土地の、両方になる。

八女市の高橋商店は、銘柄を繁桝という。八女の地名でも、蔵の姓でもない。名だけを見ても、土地には戻らない。土地を思い出させない名を選んだ蔵が、同じ県のなかにある。

家で開けるなら、筑紫野 大吟醸がある。

PR 筑紫野 大吟醸 大賀酒造(福岡県筑紫野市)

20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています。

繁桝のほうは、夏に夢る雪 純米大吟醸 薄にごりという名で瓶になっている。土地の名は、どこにも出てこない。

PR 夏に夢る雪 純米大吟醸 薄にごり 高橋商店(福岡県八女市)

20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています。

筑紫野の宿

同じ大丸別荘を、二度別々の記事が訪れている。どちらも、庭園を抜けてから部屋へ入っている。抜ける庭園は同じでも、抜けたあとに書かれたものは記事ごとに違う。庭園が動かないまま、そこを通る人だけが入れ替わっていく。

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