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移築という営み
古民家の移築は、建物を、もとの場所から別の場所へ動かすことをいう。
ただ運ぶのではない。柱や梁を一本ずつ解体し、どこの何番かを記録する。運んで、別の土地で、同じ順序に組み直す。
寸法は記録できる。継手の位置も記録できる。
記録できないものもある。煤で黒くなった梁の色。長年、手で触られてできた柱の艶。それらは仕様書に書けないまま、建物とともに運ばれる。
番号をつけて外し、運んで、組み直す。それでも、同じ家と呼ばれる。
The-Yohakuが記録した宿のうち、移築した古民家を用いるものを束ねる。
移された家の宿
- 湯宿 草菴(島根・湯の川) — 古民家を再生した離れ客室(天保・庄屋・明治)。食事処は築百十一年の移築古民家。 → 移された家の、二度目の場所
- 忘れの里 雅叙苑(鹿児島・妙見) — 古民家を移築した離れ家形式の全八室。 → フォルダ名を消した日
- Onsen & Garden 七菜(石川・金沢) — 築二百年の古民家を再生した全三室。 → 三組しかない日の、余白
もとの場所は、記録に残らないことがある
移築した宿の多くは、建物が「築何年か」は伝えるが、「もとはどこにあったか」までは公表していないことがある。
The-Yohakuの各記事では、宿の公式サイトや予約サイトに記載がある範囲でしか書いていない。移築元や移築の時期が確認できないものは、書いていない。
分からないことは、分からないまま置く。
二度目の年月
新築の建物は、その場所で一度目の年月を始める。
移築された古民家は、違う。もとの場所で過ごした年月を持ったまま、別の場所で二度目の年月を始める。
黒い梁は、いまの宿で黒くなったのではない。運ばれてくる前に、すでに黒かった。
その黒さの上に、宿としての新しい年月が重なっていく。
泊まる一晩は、その二度目の年月の、ごく短い一部分である。
