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理由
飛行機に乗るのは、いつも現場のためだった。
チケットを取って、遠征の日程を組んで、余ったら観光を足す。順番は、いつもそうだった。
今回は逆だった。まず宿を決めた。現場は無い。理由も無い。
金額を見て、いつもの癖で現場何回ぶんかを数えかけた。数えかけて、止まった。
数える相手が無い。次の現場が、無い。
通知
空港で、スマホを見た。グルチャは動いていない。
搭乗案内が流れる。並ぶ。座る。ベルトを締める。
離陸してから、通知が来なくなる時間があった。三時間ある、と知っていて、いつもは着陸直前まで機内モードを解いてしまう。今回は、そのまま持った。
三時間、通知を見なかった。見なかった時間を、あとで金額に換算しようとして——しなかった。しなかったことに、遅れて気づいた。
湯
宿の湯は、地下から汲んだままだという。ろ過も加温も加水もしていない、と説明にあった。

湯上がりに、脱衣所の隅で、男が一人スマホの画面を見ていた。見たまま、動かなかった。俺も似たようなものだと思った。
自分の部屋が今どうなっているかは、考えなかった。考えると止まるから、いつも考えない。
一泊ぶん
夕食は個室で取った。海ぶどうと、ラフテーが出た。誰にも送らない写真を、一枚だけ撮った。
食べ終えて、手帳の代わりにメモアプリを開いた。今日、金額に換算しなかった三時間のことを、一行だけ書いた。
現場何回ぶん、とは書かなかった。
帰り
翌朝、那覇空港へ戻った。
グルチャは、まだ止まっている。二十三人のまま、抜けた人は増えていない。
次の遠征の予定は、まだ無い。無いままでいいのかは、まだ分からない。
分からないまま、搭乗案内を待った。
