宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 122

勧めない道

計測をやめられない人間の、漸進的な手放し方

会社を立ち上げて、燃え尽きて、いま手放そうとしている。睡眠も、心拍も、生産性も、十年以上測ってきた。測るのをやめる方法が分からない。少しずつ手を離す以外に、思いつかない。

大輔という語り手について →

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二通り

所要時間を調べるのは、僕は早い。

出発地と到着地を入れて、経路が三つ出れば三つとも開く。開いてから、いちばん短いものを選ぶとは限らない。それでも三つとも開く。開かないと、選んだことにならない気がする。

一月から、消せずにいる記録がある。アプリを開いて、削除の画面まで出して、閉じる。三月までに七回やった。七回とも閉じた。七回目の夜に、台所で水を二杯飲んだ。喉が渇いていたわけではない。

その夜に、鹿児島の宿を取った。遠いところにした。空港からバスで百十分。百十分は、僕がやっていた会議の三つぶんである。三つぶん、何もしないで運ばれてみたかった。

食事の付け方は一人でも選べた。

分からなかったのは、行き方のほうだ。

案内に、二通り書いてあった。空港からバスで百十分。あるいは車で、高速を降りて国道を六十分。

国道のほうに、括弧がついていた。

指宿スカイラインはお勧めしておりません。

理由は、書いていない。

僕は地図を開いて、両方を引いた。スカイラインのほうが、距離も、地図の上の所要も短い。

短いほうを、勧めていない。

理由が書いてあれば、僕は従うか、従わないかを決められる。凍結、と書いてあれば冬を避ける。工事、と書いてあれば時期を見る。

書いていないと、決められない。

六十分

空港で車を借りた。バスにしなかったのは、着く時刻を自分で決めたかったからだ。

行きは、案内のとおりに走った。高速を降りて、国道を南へ。

画像はイメージです

海が右に出てくる。三月の海は白っぽい。左は畑で、何を植えているのかは分からなかった。

六十分と書いてあって、六十三分だった。三分は、信号だと思う。

宿に着いて、鍵をもらった。部屋から海が見えた。

鍵をもらうとき、帰りの道を聞いた。スカイラインは、と言った。国道のほうが確実です、と答えが来た。

なぜですか、と聞いた。係の人は少し考えて、そう案内しております、と言った。それから、鍵を僕の手に置いた。

次の質問を、僕は用意していなかった。

荷物を置いて、腕からデバイスを外した。

外して、机に置いた。鞄には入れなかった。

前は、鞄の内ポケットに入れた。入れたまま一晩測って、鞄が九時間眠ったことになった。あの記録は、まだ消していない。

今日は机に置いた。置いて、充電の線をつないだ。つないだので、測っていない。

画像はイメージです

湯は熱くない。窓の外が暗くなると、海と空の境が消えて、どこまでが水なのか分からなくなる。

湯の中で、腕を見た。デバイスの跡が白い帯になって残っている。二年つけている。指で押すと、少し戻る。戻りきるのに、数秒かかった。

夕食は下でとった。判別できないものが二つあった。どちらも食べた。

何席か離れて、男が一人、座っていた。箸置きを見ていた。見てから、一度持ち上げて、同じ場所に戻した。

帰り

朝、湯にもう一度入った。

部屋に戻って、デバイスを腕に戻した。アプリを開いた。測っていないのだから、無いに決まっている。それでも開いた。

昨夜の欄が空だった。線が一本も無い。しばらく見て、閉じた。

十時に出た。

分岐で、僕はスカイラインのほうへ入った。

分岐の手前で速度を落として、それから曲がった。曲がってから、曲がったことに気づいた。

道は山を上がっていく。両側が木で、対向車はほとんど来ない。カーブは多いが、走れないほどではない。

霧は出なかった。雨も降らなかった。落石も、通行止めもなかった。

何も起きなかった。

何も起きなかったからといって、勧めない理由が無いことにはならない。

空港には、地図の出したとおりの時刻に着いた。

消す

東京に戻って、その夜にアプリを開いた。

一月の記録が残っている。鞄が測った一晩である。最も深い眠りが九時間続いたことになっている。

削除の画面を出した。前も、ここまでは出した。前は、閉じた。

今日は、押した。

画像はイメージです

消えた。週の平均が、その日ぶんだけ動いた。動いた幅を、僕は計算した。〇・三である。

〇・三のために、二か月置いていたことになる。

数える癖のほうは、消していない。

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Field Notes

指宿ロイヤルホテル

Overview

鹿児島県
Region
鹿児島県指宿市十二町(指宿温泉)
Access
鹿児島空港から指宿駅まで空港バスで約110分、JR指宿駅からタクシーで約5分。車の場合、宿の案内は九州自動車道・谷山ICから国道226号を指宿方面へ約60分としており、指宿スカイラインは勧めていない
Price
予約サイトで確かめた一万円台後半〜(1名1室・条件不明) 公開の情報から中価格帯(Reluxの1名1室で一万円台後半〜。食事の付くものは2万円台から4万円台まで幅がある)

Facility

Room
大人1名・1室の検索で部屋3件・プラン6件(2名の検索では部屋5件・プラン6件)。プラン数は1名と2名でまったく同じ
Meal
食事なし・朝食付き・2食付きが1名でも選べる。予約の段階で選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 海辺の宿

向いている人間

  • 一人で予約したい人(1名で部屋3件・プラン6件が表示される)
  • 食事の付け方を選びたい一人客(プラン数は2名と同じ)
  • 1泊を2万円前後に収めたい一人客

向いていない人間

  • 移動を短くしたい人(鹿児島空港から指宿駅まで空港バスで約110分)
  • 部屋を広く選びたい一人客(1名で出る部屋は3件。2名なら5件)
  • 駅から歩いて着きたい人(指宿駅からタクシーで約5分)

予約前の注意事項

車で向かう場合、宿の案内は谷山ICから国道226号を約60分としたうえで、指宿スカイラインは勧めていない(理由は書かれていない)。地図の上で短く見えても、宿の案内どおりの経路を選ぶこと。公共交通なら鹿児島空港から指宿駅まで空港バスで約110分、駅からタクシーで約5分。1名でもプランは6件出て、これは2名と同じ数。

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