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足元湧出とは
温泉の多くは、源泉を汲み上げ、あるいは引いて、湯船に注ぐ。湯口があり、そこから湯が落ちてくる。
足元湧出は、それとは順序が違う。
湯が湧いている、その真上に浴室を建てる。湯船の底から、源泉が直接上がってくる。湯口がない。
配管を経由しないため、湧いたばかりの湯に、そのまま触れることになる。空気に触れる時間が短く、酸化や温度の低下が少ない。
日本の温泉のなかで、この形式は多くない。名泉鍵湯 奥津荘の公式は、足元から湧く湯を「日本国内でわずか0.001%」と記している。
The-Yohakuで記録した宿のうち、二軒がこの形式である。事実を、ここにまとめておく。
法師温泉 長寿館(群馬)
法師乃湯には、湯口がない。
湯は、湯船の底に敷き詰められた玉石の隙間から湧く。源泉の真上に湯屋が建っている、ということである。
湧く場所は動かせない。だから、建物のほうが湯に従った。明治の木造が湯の真上にあるのは、その順序の帰結である。
川端康成がこの宿に歌を残していることは、別の記事に書いた。
普通は、必要があって場所を決める。この湯は、場所が先にあって、人があとから来た。
- 小説として: 新緑に、赤字は入れない(語り手・克彦の回)
- 事実として: 一首の歌が残る、山の湯
名泉鍵湯 奥津荘(岡山)
奥津荘の湯船も、底が砂利で、その隙間から源泉が湧く。
岡山県の北部、津山駅からバスで約六十分の山あいにある。バスの本数は少なく、送迎はない。
交通の便の悪さが、そのまま静けさの根拠になっている宿である。本館は登録有形文化財。
- 小説として: 測れない湧き方(語り手・大輔の回)
触れ方が同じである
足元湧出の湯に足を沈めるとき、入る者は配管も湯口も経由せず、湧出のその場所に直接触れる。
これは、百年前の人も、千年前の人も、同じだった。
湯の温度や成分は測れる。湧出量も測れる。しかし、底から上がってくる湯が足の裏に当たる、その感触は、指標にならない。
測れないものが、そこにある。
それを確かめるために、人はこの二軒へ、不便を承知で向かう。
