宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 064

呼ばれない一晩

罪悪感ごと荷物を持ったまま、それでも休むこと

母を預けて出かけられるのは、一泊二日が限界だ。預けること自体に、うまく名前を付けられていない。自分が疲れている、と口に出す言い方を、長いあいだ持っていない。

美咲という語り手について →

本記事はアフィリエイト広告(Expedia・Relux)を利用しています。

一名

「お母さん、最近よく笑いますよ」

施設の人が言った。私は靴を履きながら、笑いますか、と返した。家では笑わない。——でも、いい。笑うなら、いい。

次の面会まで二週間空く。その真ん中に、二泊ぶんの空きがある。母を預けたまま、私が一晩どこかにいても、誰にも何も起きない日。

夜、予約の画面を開いた。人数のところが二名になっている。一に変えた。

消えた。さっきまで並んでいた部屋が、白くなった。

別の宿を開いた。同じことが起きた。三軒目も。二名のときはあれだけあったものが、一に変えるだけで無くなる。無くなるというより、初めから私に向けて置かれていなかったのだと思う。

四軒目で、消えなかった。部屋が十三件、プランが三十四件。二名にすると十二件になる。一のほうが、多い。

プランを上から見ていった。同じ献立のものが、二つずつ並んでいる。会場で食べるものと、部屋へ運んでもらうもの。

同じ会席だった。会場で食べるか、部屋へ運んでもらうか。それだけで、四千円ほど違った。

四千円。母のショートステイの、一日ぶんに近い。

会場のほうを押した。

陸羽東線

新庄で乗り換える。山形新幹線の終点で、そこから在来線に乗ると、車両が二両になった。

二十五分。窓の外に川が出てきて、しばらく並んで走った。十一月の川は水が少なくて、底の石が見えている。

途中の駅で、高校生が四人降りた。降りたあと、車内に私ともう一人だけになった。

画像はイメージです

携帯を見た。着信はない。見なくても分かっていた。それでも、二十五分のあいだに四回見た。

駅から歩いて七分だと書いてあった。連絡すれば迎えに来てくれるとも書いてあったが、七分なら歩ける。歩いて、坂を下りて、橋を渡った。

橋の上で、いちど止まった。止まる理由はなかった。

会場

夕食の会場に、卓が離して並べてあった。私の卓は端で、壁を背にしていた。

斜め前に、家族連れがいた。四人。年配の女性と、娘らしい人と、その夫と、子供。子供が箸置きを三つ集めて、皿の縁に並べていた。誰も注意しなかった。

年配の女性が、汁椀を先に取った。両手で持って、蓋を膝の上に置いた。

母も、汁を先に飲む。順番が決まっている。三年、同じ順番を見てきた。

私は目を逸らした。逸らした先に、一人で食べている男がいた。品書きを読み終えて、きちんと畳んで、卓の隅に寄せていた。顔は見なかった。

料理は順に来た。名前を覚えようとして、二つ目でやめた。

三品目が来たとき、私は携帯を膝の上に出した。画面は暗いままだった。伏せて、鞄に入れた。鞄はまだ重い。中身は着替えと、財布と、施設の連絡ノートの控えだ。持ってこなくてよかったものを、私は毎回持ってくる。

四品目で、汁が来た。私は汁を先に飲まない。母と同じ順番になるのが嫌で、いつからか、そうしている。

五品目のあいだ、私は一度も時計を見なかった。見なかったことに、六品目で気づいた。気づいたあと、見た。七時四十分。

おいしかった。おいしいと思ったことを、あとで誰にも言わない。それだけのことだった。

画像はイメージです

部屋に戻ったのは八時前だった。テレビを点けて、消した。

九時十五分

湯から上がって、部屋の窓を開けた。川の音がした。昼より大きい。

布団に入って、携帯を枕元に置いた。音は鳴らないように、していない。鳴ってほしいわけではない。鳴ったときに気づかないことが、三年、いちばん怖かった。

朝、六時に目が覚めた。目覚ましは掛けていない。掛けなくても、この時間に覚める。

新庄への送りは、九時十五分に一本だけある。予約が要る。私はそれに合わせて、朝食を七時に食べた。合わせるのは慣れている。

玄関で、帳場の人に、次の予約はここでもできるかと聞いた。

できます、と言われた。

私は、夕食を部屋へ運んでもらうほうで、日付を先にして取った。四千円のほうを。

ショートステイの一日ぶん、と、もう一度数えた。預けていたころの値段で数えている。数えて、その日で頼んだ。

玄関の椅子で、十分早く待った。誰も来ない十分だった。

車が来た。乗ったのは私だけだった。川がまた窓の横に出てきて、水の少ない底の石が、来たときと同じ向きに並んでいた。

この続きに

読み続ける

行き先は、このサイトの中です。

この宿を

予約はこのサイトの外へ、後で送る一通は自分のメールへ届きます。

PR この記録の宿を予約する ゆめみの宿 観松館 予約サイト(Relux)が新しいタブで開く (外部サイトが新しいタブで開きます) PRExpediaでも空室を見る(新しいタブで開く)(外部サイトが新しいタブで開きます)

この頁の場所を、自分のメールへ一通送る

便り

次の話が公開されたとき、一通だけ届きます。

Field Notes

ゆめみの宿 観松館

Overview

山形県
Region
山形県最上郡最上町(瀬見温泉)
Access
山形新幹線で新庄駅へ約3時間30分、陸羽東線に乗り換えて瀬見温泉駅まで25分、駅から徒歩7分。瀬見温泉駅への迎えは当日の連絡でも受けている。新庄駅との送迎は迎え14:45・送り9:15の各1便のみで、予約が要る
Price
予約サイトで確かめた一万円台前半〜(1名1室・夕朝食付) 2名1室での実測一万円に届かない(2名1室の1名分・夕朝食付) 公開の情報から中価格帯(Reluxの1名1室・二食付で1万円台前半から。じゃらんの夕朝食付2名1室では1名あたり一万円に届かない・2026-09-05 実測。会場で食べるか部屋へ運んでもらうかで料金が分かれ、同じ会席でも差がつく。夕食なし・朝食付はさらに下がる)

Facility

Room
総部屋数49室(楽天トラベルの基本情報)。じゃらんの部屋一覧に並ぶのは46室で、内訳は一般客室15・掘りごたつ付7・マッサージチェア付16・ファミリーツイン貴賓室1・温泉半露天風呂付き客室【七宝倶楽部】和室3と和洋室4。温泉の付く客室は7室(2026-09-05)。大人1名・1室の検索でも部屋が表示される
Meal
二食付のほか、夕食なし・朝食付のプランがある。夕食は会場で取るか、部屋へ運んでもらうかを予約時に選ぶ

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 部屋食の宿
  • 露天風呂付き客室

向いている人間

  • 一人で予約したい人(大人1名・1室の検索で部屋もプランも表示される)
  • 夕食を人と同じ場所で取りたくない人(部屋へ運んでもらうプランがある)
  • 夕食の時刻に縛られたくない人(夕食なし・朝食付のプランがある)

向いていない人間

  • 新庄駅からの送迎を使いたいが、迎え14:45・送り9:15の便に合わせられない人
  • 駅から荷物を持って7分歩くのが難しい人(連絡すれば迎えがある)
  • 夕食の場所にこだわらない人(会場と部屋で料金が分かれるので、選ばないなら安い側でよい)

予約前の注意事項

新庄駅との送迎は迎え14:45・送り9:15の各1便のみで、予約が要る。瀬見温泉駅からの迎えは当日の連絡でも受けている。夕食を会場で取るか部屋へ運んでもらうかで料金が変わるので、予約の段階で選ぶこと。料金は時期とプランで変わる。

次の話

新しい記録が公開されたときだけ、一通お知らせします。
それ以外のメールは届きません。

メールアドレス以外は受け取りません。配信はいつでも解除できます。 取り扱いはプライバシーポリシーのとおりです。