宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 078

予定を立てない

終わりのある仕事の豊かさ。毎日新しく終わること

定年のあと、一人で旅をしている。記録は万年筆で、誰にも読ませない速さで付ける。急がない。並ばない。名所を名所として見ない。終わりのある仕事は、毎日新しく終われた。

修一という語り手について →

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段ボール

娘の引っ越しを手伝った。段ボールを、何往復も運んだ。若い頃はこの程度で息が切れなかったはずだが、確かめる方法はない。

新しい部屋に、荷物はまだ半分も収まっていなかった。娘が、続きは自分でやる、と言った。

徒歩五分

上田駅から、上田電鉄別所線に乗り換えた。二両編成だった。終点の別所温泉駅まで、三十分ほどだった。

駅から宿までは、徒歩五分だという。送迎は無い。段ボールを運んだ翌日の五分は、いつもの五分より長く感じた。娘は、大丈夫、と一度も聞かなかった。聞かれなくてよかった。

画像はイメージです

宿は、大正六年の創業だという。建物のほとんどが、当時のままだと聞いた。床の間に、古い写真が飾ってあった。誰が写っているかは、分からなかった。

減速

部屋に入って、しばらく動かなかった。動かないことを、久しぶりにしていると思った。

湯に入ると、肩の張りが少し緩んだ。段ボールの角が当たった痕が、二の腕に残っていた。痕を見て、娘が、痛かった、と聞いた。今頃気づいたのか、と思ったが、言わなかった。

画像はイメージです

湯から戻る廊下の突き当たりに、男が一人いた。窓の桟に手帳を広げて、立ったまま何か書いていた。書き終えても、閉じずに持っていた。

夕食は部屋で出た。膳が一品ずつ運ばれてきて、運ぶ人の足音は、廊下に出るまで聞こえなかった。

娘は、新しい部屋の間取りの話をした。収納の位置と、朝の光の入り方の話だった。私は、時刻表の話をしなかった。

予定を立てない

朝、いつもなら帰りの列車を先に決めておく。今回は、決めていなかった。

娘が、もう少しいてもいい、と言った。私は、時刻表を開かなかった。開かないまま、もう少し、と答えた。

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Field Notes

旅館花屋

Overview

長野県
Region
長野県上田市(別所温泉)
Access
東京駅から北陸新幹線で上田駅約1時間15〜40分、上田電鉄別所線に乗り換えて終点・別所温泉駅まで約30分、駅から徒歩5分(送迎なし)。
Price
予約サイトで確かめた二万円台前半〜(2名1室の1名分・夕朝食付) 公開の情報から中価格帯(1泊2食・2名四万円台前半〜)

Facility

Room
本館和室/離れ・源泉かけ流し内湯付き和室/温泉露天付特別室など。大正6(1917)年創業、建物は創業以来宮大工による普請
Meal
会席料理。夕食は部屋出しまたは個室(場所は宿おまかせのプランあり)。朝食は和定食で卵料理を3種から選べる

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 文化財の宿

向いている人間

  • 登録有形文化財の木造建築・大正期の旅館建築に泊まりたい人
  • 新幹線+ローカル線+徒歩だけで到達したい人(車不要)
  • 身体を動かした翌日、静かに休みたい人

向いていない人間

  • 宿の送迎を前提にする人(送迎なし)
  • 駅からの距離をタクシーで詰めたい人(徒歩5分が前提)

予約前の注意事項

駅から宿まで送迎はなく徒歩5分。前日に身体を動かしている場合はこの距離も考慮する。料金は変動する。

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