本記事はアフィリエイト広告(一休.com)を利用しています。
段数を数える
十一月に入って、置き配の指定が付いた家の玄関が開いた。開けたのは、あたしの祖母くらいの年の人だった。鍵が三つあって、内側から一つずつ外していた。あたしは袋を持ったまま待った。人の顔は見ない癖がついているのに、その日は見た。
自転車に戻って、ハンドルを握ったまま、次の件を受けなかった。三分。三分は、二件ぶんだ。
秋に会う約束をしていた。その日を待たずに、あたしから電話をかけた。
祖母を、鹿児島へ誘った。今度は飛行機だと言うと、祖母は、あたしが乗ったことないのに、と笑った。空は一度も飛んでいない。
宿を選ぶのに、四晩かかった。見たのは値段ではなく、部屋から湯までの段の数だった。写真が全部載っている宿は少ない。八棟の離れの写真がどれも出ている宿を見つけて、あたしは全部の段を数えた。数えて、いちばん少ないところに決めた。
空港の売店で、軽石を売っていた。桜島の噴石だという。買わなかった。
十五分
鹿児島空港から、車で十五分ほどだった。運転は宿が手配したタクシーに任せた。
離れへ渡る石の段で、靴の先が二度、同じ段をたしかめた。男が一人、それから上がっていった。あたしが数えたのは段数で、高さは数えていない。
古い民家を移してきたと、案内にあった。部屋の外まで、坂と段差があった。祖母の足で、部屋から離れの湯まで歩く距離を、あたしは着く前から数えていた。
祖母が石の段を上がりはじめた。手すりに手をかけて、一段ずつ止まる。あたしは横についた。上から三段目で、数えるのをやめた。
数えたら、部屋の中に湯があった。

出ない一日
部屋の中に、内風呂と露天が両方あった。祖母は朝と夜、二回入った。あたしは一回。
昼、することが無くなった。畳に寝転んで、天井の梁を見た。節が四つあった。四つ目まで数えたところで、声が出た。祖母が、何、と聞いた。何でもない、と答えた。祖母はそれ以上聞かずに、縁側で足を伸ばした。
食事も部屋に運ばれた。地鶏の刺身が出た。祖母は、生の鶏を初めて見た、と言った。あたしも初めてだった。
離れの縁側から、地鶏の声が聞こえた。祖母が、鳴き方が家の鶏と違う、と言った。あたしには同じに聞こえた。同じに聞こえる、と言うと、祖母は、あんたは耳も走ってるからね、と言って笑った。

一日、部屋から出なかった。日が傾いて、縁側の板の色が変わった。祖母は同じところに座っていた。あたしは足を伸ばして、伸ばしたまま、しばらくそこにいた。
半年より前
朝、離れの前を掃いていた宿の人に、昨日は一度もお出になりませんでしたね、と言われた。滝も近いので、車を出しますよ、と続いた。
動かないために来た、と言えばいいのだが、それを人に言ったことがない。宿の人は箒を止めて、待っている。あたしは離れの屋根のあたりを見て、それから足元の段を見た。
祖母が横から、この子は歩くのが仕事だからね、と言った。宿の人は笑って、また掃きはじめた。
迎えの車を待つあいだ、祖母が、次はいつ、と聞いた。
前は半年先の日付を答えた。今回は、三か月後の日付を言った。祖母は、早いね、と言った。早くした理由は、言わなかった。
空港の売店で、祖母が土産の袋を長く選んだ。同じ柄を二度手に取って、二度戻した。あたしは横で待った。何分だったかは、いまも出てこない。
行きに買わなかった軽石を、二つ買った。一つを祖母の手に載せた。
