宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 094

気兼ねはいらないはずだった

他人の物語を燃料にして、自分の予定表の空白とどう向き合うか

予定表が埋まっているうちは、何も考えなくていい。遠征と配信で週末は先まで塞がっている。空白があると、もったいない、と思う。その「もったいない」が何を指しているのかは、まだ考えないことにしている。

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遠征以外

遠征でしか会わなかった相手だった。会うたびに、現場の話しかしなかった。今回は、現場がない。

甲府に宿を取った、と個別に送ったら、行く、とだけ返ってきた。理由は聞かれなかった。俺も、理由は書かなかった。

十分

新宿から、あずさで一時間半。窓の外が山に変わるところで、写真を撮った。三枚撮って、一枚選んで送った。選ぶのに、また十分かかった。

気を遣わなくていい相手のはずだった。三枚撮って一枚選ぶのに十分かける相手は、たぶん、そうじゃない。そのことに、今になって気づいた。

画像はイメージです

名前を知らない

甲府駅の南口からバスに乗った。乗り込んできた男が、整理券を取ってすぐ、路線図を睨みはじめた。降りる停留所を、指でなぞって確かめていた。湯村温泉入口で降りた。宿までは一分だった。庭園に離れが点在していると聞いていた。俺たちが取ったのは、東館の和室だった。

通された部屋で、相手の顔をあらためて見た。住んでいる場所も、仕事も、俺は知らない。会ったのは遠征の現場だけで、それ以外の情報を、互いに聞かなかった。聞かなかったことに、理由はない。聞く機会がなかっただけだ。

供給の話以外

夕食は個室だった。会席が一皿ずつ運ばれてきた。今日は供給の話をしなかった。班のグルチャの話もしなかった。

何を話したか、あとで思い出そうとして、うまく思い出せなかった。話が続いたことだけは、覚えている。

画像はイメージです

大浴場に、庭に面した窓があった。湯気で少し曇っていたが、庭の欅が見えた。相手が、この木、大きいな、とだけ言った。俺は、うん、と答えた。それだけの会話が、なぜか長く残った。

一行

翌朝、発つ前に、また写真を撮った。庭の欅を、今度は一枚だけ撮って、すぐ送った。三枚撮らなかった。

選ばずに送れたことに、帰りのあずさの中で気づいた。気づいて、それが何を意味するのか、まだ分からなかった。

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Field Notes

信玄の湯 湯村温泉 常磐ホテル

Overview

山梨県
Region
山梨県甲府市(湯村温泉)
Access
新宿駅から特急あずさ約1時間30分で甲府駅→南口からバス約15分「湯村温泉入口」下車徒歩約1分、タクシー約10〜12分
Price
予約サイトで確かめた三万円台前半〜(1名1室・夕朝食付) 2名1室での実測二万円台後半〜(2名1室の1名分・夕朝食付) 公開の情報から中〜高価格帯(1泊2食・2名五万円台前半〜。1名あたり二万円台半ば〜)

Facility

Room
東館・西館の和室/和洋室(全50室)。離れ7棟11室が庭園内に点在(離れの露天風呂は全て源泉かけ流し)
Meal
夕食は和会席(基本は個室会場)。朝食は和定食(個室)

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 老舗ホテル
  • 離れ
  • 文豪ゆかりの宿

向いている人間

  • 友人と、気を遣わずに過ごせる宿を探している人
  • 庭園に離れが点在する老舗宿に泊まりたい人
  • 個室で夕食を取りたい人

向いていない人間

  • 駅近・市街地直結の利便性を求める人
  • モダンなホテル設備を期待する人(1929年開業の老舗和風ホテル)
  • 大浴場で源泉かけ流しを求める人(大浴場は加温)

予約前の注意事項

大浴場は加温(かけ流しは離れ・露天風呂付客室)。チェックイン15:00〜19:00。送迎の有無は要問合せ。料金は変動する。

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