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十五日、午後
冷蔵庫の扉に、紙が一枚貼ってあった。
妻の字で、十五日、午後、とある。何の予定かは書いていない。
自分の十月を開いた。十五日の午後は空いている。ほかの日も空いている。
予定の入っていない日は、数えれば出る。先月も、その前も出る。出たところで、去年の同じ月と比べるのか、会社があったころと比べるのか、それともほかの誰かの十月と比べるのか、分母のほうが決まらない。
五月に、京都へ一人で行った。あれが、今年いちばん遠くへ出た日になっている。
その夜、大分の山のほうに宿を取った。七室の、湯治場である。
妻に言った。どこ、と聞かれて、地図を出した。
「駅から、どうやって行くの」
バス、と答えた。
「一日に何本」
あとで調べた。平日は六本で、土日祝は一本だった。
豊肥本線
羽田を八時五分に出て、大分空港に九時四十五分に着いた。十時ちょうどの連絡バスで、大分駅前に十時五十八分。千六百円。
大分から先は豊肥本線である。十二時九分の熊本行きの特急に乗った。豊後竹田着は十三時九分。停まる駅は三つ。
一本あとの普通は十二時二十二分に出て、十三時五十分に着く。特急券は千円だった。千円を出すと、四十一分早く着く。
着いた先のバスは、どちらにしても十四時三十三分である。
僕は特急に乗った。

窓の外は、途中から家が減った。耳の奥が一度詰まって、すぐ戻った。
桑畑
豊後竹田で、八十四分あった。
駅の近くで現金を下ろした。宿の頁に、現地ではクレジットカードが使えないと書いてある。財布に一万円札を入れるのは久しぶりだった。三枚入れた。足りるはずだった。もう一枚足した。
竹田駅前からバスに乗った。十四時三十三分。三十八分で桑畑に着く。先に乗っていた人が、いちばん後ろに一人いた。
道の脇に、刈った草が積んであった。積み方が全部同じだった。
降りると、すぐだった。頁に書いてあったとおりだった。
部屋はシングルルームである。宿の頁に、定員一名、とある。二名で探したときには、この部屋は出てこない。
ベッドが一つあって、風呂は無い。手洗いだけある。
鞄の底に、折り畳み傘が入っていた。
ブクブク
温泉棟の受付に、紙が貼ってあった。
入浴料、大人六百円。年間パスポート、二万円。その下に、こうある。通常の入浴料六百円。年間三百六十日入浴されたのならば二十一万六千円となります。
六百に三百六十を掛けた。二十一万六千。合っている。
三百六十日。残りの五日ぶんのことは、どこにも書いていない。
受付の人が、入り方を教えてくれた。内湯で汗が出るまで入って、出たら露天へ移って、そのあと水風呂で、それを二回、水風呂では両手を十秒ほど動かすと泡が出ます、十秒というのはだいたいで、そのへんは、と言って、そこで止めた。
脱衣所の壁に、同じことが紙で貼ってあった。内湯、五分から十分。露天、十分から十五分。水風呂、三分から十分。いちばん下に、できれば二回繰り返す、とある。
時計を外して、棚に置いた。数えるのは、頭でもできる。
棚には、手拭いが一枚、四つに畳んで置いてあった。僕のも同じ大きさだった。この宿はバスタオルを置いていない。
戻ってきた男がそれを取り、一度広げてから、また四つに畳んで持っていった。
自分の手拭いを見た。四つに畳んである。畳んだのは僕だ。

内湯は三十度から四十一度と紙にあって、入ると、ぬるい。底がざらついている。手でなぞると、細かいものが沈んでいた。湯の花だと、紙が説明していた。
七分で、額に汗が出た。
露天へ移った。浴槽が段になっている。低いほうに腰を下ろした。水の音が、切れずに続いていた。十二分。
水風呂には赤茶色のものが漂っている。両手を十秒動かした。泡が出た。細かいのが腕に付いて、押すと消えた。六分。
できれば、の二回目をやった。内湯で汗が出たのは四分だった。露天には十八分いた。
湯から上がって、紙をもう一度読んだ。幅は変わっていない。
芹川
夕食が出た。会席だと頁にあった。
宿の頁の設備の欄に、フィットネス、とあった。
六時に目が覚めた。外はまだ暗かった。
チェックアウトは十時である。桑畑から竹田駅前へ行くバスは、八時三十六分の次が十三時三十六分だった。
十時に荷物を預けて、受付で六百円を払った。小銭で足りた。
同じ内湯に入った。ぬるい。底は昨日と同じようにざらついている。
今日は湯のほうを見ていた。底のざらが少し浮いて、また沈んだ。それを何度か見た。
上がって指を見たら、腹に皺が寄っていた。
外へ出て、川のほうへ歩いた。ふちに白い穂が立っていて、風が来るとそろって傾いた。
十三時三十六分のバスに乗った。三十八分で竹田駅前に着いた。
給湯器
東京に戻って、次の火曜の夜だった。
風呂を張った。四十一を押す。
四十一にしたのがいつかは、憶えていない。
溜まった。手を入れた。熱い。
水を足して、もう一度、手を入れた。
三十九か、四十か。
そのまま入った。
お湯が沸きました、と機械が言った。
