宿と小説の読みもの、余白
第 133 話

五分から十分

計測をやめられない人間の、漸進的な手放し方

会社は人に渡した。睡眠も心拍もいまも測っていて、妻の親の介護は去年終わり、妻と二人、予定の入らない日が続いている。

大輔の一晩は、これで12話目。 前の一晩は『五つの風呂』、京都 梅小路 花伝抄(共立リゾート)(京都府京都市下京区)。

大輔という語り手について →

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十五日、午後

冷蔵庫の扉に、紙が一枚貼ってあった。

妻の字で、十五日、午後、とある。何の予定かは書いていない。

自分の十月を開いた。十五日の午後は空いている。ほかの日も空いている。

予定の入っていない日は、数えれば出る。先月も、その前も出る。出たところで、去年の同じ月と比べるのか、会社があったころと比べるのか、それともほかの誰かの十月と比べるのか、分母のほうが決まらない。

五月に、京都へ一人で行った。あれが、今年いちばん遠くへ出た日になっている。

その夜、大分の山のほうに宿を取った。七室の、湯治場である。

妻に言った。どこ、と聞かれて、地図を出した。

「駅から、どうやって行くの」

バス、と答えた。

「一日に何本」

あとで調べた。平日は六本で、土日祝は一本だった。

豊肥本線

羽田を八時五分に出て、大分空港に九時四十五分に着いた。十時ちょうどの連絡バスで、大分駅前に十時五十八分。千六百円。

大分から先は豊肥本線である。十二時九分の熊本行きの特急に乗った。豊後竹田着は十三時九分。停まる駅は三つ。

一本あとの普通は十二時二十二分に出て、十三時五十分に着く。特急券は千円だった。千円を出すと、四十一分早く着く。

着いた先のバスは、どちらにしても十四時三十三分である。

僕は特急に乗った。

画像はイメージです

窓の外は、途中から家が減った。耳の奥が一度詰まって、すぐ戻った。

桑畑

豊後竹田で、八十四分あった。

駅の近くで現金を下ろした。宿の頁に、現地ではクレジットカードが使えないと書いてある。財布に一万円札を入れるのは久しぶりだった。三枚入れた。足りるはずだった。もう一枚足した。

竹田駅前からバスに乗った。十四時三十三分。三十八分で桑畑に着く。先に乗っていた人が、いちばん後ろに一人いた。

道の脇に、刈った草が積んであった。積み方が全部同じだった。

降りると、すぐだった。頁に書いてあったとおりだった。

部屋はシングルルームである。宿の頁に、定員一名、とある。二名で探したときには、この部屋は出てこない。

ベッドが一つあって、風呂は無い。手洗いだけある。

鞄の底に、折り畳み傘が入っていた。

ブクブク

温泉棟の受付に、紙が貼ってあった。

入浴料、大人六百円。年間パスポート、二万円。その下に、こうある。通常の入浴料六百円。年間三百六十日入浴されたのならば二十一万六千円となります。

六百に三百六十を掛けた。二十一万六千。合っている。

三百六十日。残りの五日ぶんのことは、どこにも書いていない。

受付の人が、入り方を教えてくれた。内湯で汗が出るまで入って、出たら露天へ移って、そのあと水風呂で、それを二回、水風呂では両手を十秒ほど動かすと泡が出ます、十秒というのはだいたいで、そのへんは、と言って、そこで止めた。

脱衣所の壁に、同じことが紙で貼ってあった。内湯、五分から十分。露天、十分から十五分。水風呂、三分から十分。いちばん下に、できれば二回繰り返す、とある。

時計を外して、棚に置いた。数えるのは、頭でもできる。

棚には、手拭いが一枚、四つに畳んで置いてあった。僕のも同じ大きさだった。この宿はバスタオルを置いていない。

戻ってきた男がそれを取り、一度広げてから、また四つに畳んで持っていった。

自分の手拭いを見た。四つに畳んである。畳んだのは僕だ。

画像はイメージです

内湯は三十度から四十一度と紙にあって、入ると、ぬるい。底がざらついている。手でなぞると、細かいものが沈んでいた。湯の花だと、紙が説明していた。

七分で、額に汗が出た。

露天へ移った。浴槽が段になっている。低いほうに腰を下ろした。水の音が、切れずに続いていた。十二分。

水風呂には赤茶色のものが漂っている。両手を十秒動かした。泡が出た。細かいのが腕に付いて、押すと消えた。六分。

できれば、の二回目をやった。内湯で汗が出たのは四分だった。露天には十八分いた。

湯から上がって、紙をもう一度読んだ。幅は変わっていない。

芹川

夕食が出た。会席だと頁にあった。

宿の頁の設備の欄に、フィットネス、とあった。

六時に目が覚めた。外はまだ暗かった。

チェックアウトは十時である。桑畑から竹田駅前へ行くバスは、八時三十六分の次が十三時三十六分だった。

十時に荷物を預けて、受付で六百円を払った。小銭で足りた。

同じ内湯に入った。ぬるい。底は昨日と同じようにざらついている。

今日は湯のほうを見ていた。底のざらが少し浮いて、また沈んだ。それを何度か見た。

上がって指を見たら、腹に皺が寄っていた。

外へ出て、川のほうへ歩いた。ふちに白い穂が立っていて、風が来るとそろって傾いた。

十三時三十六分のバスに乗った。三十八分で竹田駅前に着いた。

給湯器

東京に戻って、次の火曜の夜だった。

風呂を張った。四十一を押す。

四十一にしたのがいつかは、憶えていない。

溜まった。手を入れた。熱い。

水を足して、もう一度、手を入れた。

三十九か、四十か。

そのまま入った。

お湯が沸きました、と機械が言った。

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万象の湯 湯治場棟

Overview

大分県
Region
大分県竹田市(長湯温泉・芹川上流)
Access
東京から大分空港へ空路。大分空港から大分交通「エアライナー」で大分駅前へ約1時間。JR豊肥本線で豊後竹田駅へ(熊本行きの特急で約1時間、普通で約1時間15分〜1時間30分)。竹田駅前から竹田市の長湯線で三十八分、桑畑下車すぐ(所要は竹田市バス路線 総合案内の長湯線時刻表。14時33分発・15時11分着)。じゃらん・宿名義は「JR豊後竹田駅よりバスで約40分、桑畑下車すぐ」と書いている。公式は道の駅長湯温泉までバスで約45分、そこから徒歩で約23分とも書いている。長湯線は便が限られる。竹田駅前発は平日7:27・12:33・14:33・15:33・16:33・18:37の6便(土日祝は17:22の1便のみ)、桑畑発は平日6:56・7:39・8:36・13:36・16:36・18:16の6便(土日祝は7:39と13:36の2便)。事業者は大野竹田バス
Price
予約サイトで確かめた一万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付) 公開の情報から中価格帯(じゃらんを日付未定・大人1名・1室で開くと、二食付はシングルルームが一万円台の半ば、和室はその少し上。朝食付と素泊まりはさらに下。2026-10-09実測)

Facility

Room
総部屋数7室(じゃらんの基本情報。洋室2室=シングル2室・和室4室・その他1室)。公式は部屋を三種で案内し、和室を「6畳/定員2名」、洋室を「シングルルーム/定員1名」、団体用客室を「20畳/定員5名様以上〜」と書いている。大人1名の検索で出るのは和室【温水洗浄トイレ付】とシングルルーム【温水洗浄トイレ付】の2種で、じゃらんの表記はどちらも「※バスなし」。全室トイレあり・冷暖房・テレビ。じゃらんの部屋補足に「20畳が2部屋あり40畳としても使用可」
Meal
夕食と朝食とも宿が出す。じゃらんのプラン名は「料理長おすすめ会席コース」。日付を入れずに大人1名・1室で開くと、素泊まり・朝食付・夕食のみ・二食付の四つが出た(2026-10-09実測)。日付を入れると区分が減り、2026-11-12と2026-12-09はどちらも二食付が一覧に無かった。じゃらんのクチコミは夕食が4.0・朝食が4.1(499件)。日帰りの食事棟について公式は「2021年3月レストランが生まれ変わりました。麺類、カレー、その他の人気メニューを取り揃えております」と書いている

宿タイプ

  • 湯治宿
  • 川沿いの宿
  • 小規模宿

向いている人間

  • 一人用の部屋がある宿を探している人(公式が「シングルルーム/定員1名」を一人利用向けとして案内しており、二名の検索にはこの部屋が出ない)
  • 一人で食事の付け方を選びたい人(日付を入れずに大人1名・1室で開くと素泊まり・朝食付・夕食のみ・二食付の四つが出る。ただし日付を入れると出ない区分がある)
  • 源泉をそのまま流している湯に入りたい人(公式が「源泉を沸かさず薄めず、源泉かけ流しです」と書き、浴槽の底の沈殿を湯の花として自分で説明している)
  • 宿の数が少ないところがいい人(全7室)
  • 車を持たずに行きたい人(竹田駅前から路線バスで三十八分・桑畑下車すぐ。ただし便数を見ること)

向いていない人間

  • 部屋に風呂が要る人(1名で出る和室もシングルルームも、じゃらんの表記は「※バスなし」)
  • 宿でアメニティを揃えたい人(じゃらんの一覧でドライヤー・バスタオル・くし・ブラシ・髭剃り・パジャマが×。石けんは有料)
  • 土日祝に路線バスで行きたい人(竹田駅前から桑畑まで行く便は土日祝1便だけで、17時22分発)
  • カードで払いたい人(現地ではクレジットカードが使えない)
  • 日帰りの客と行き合いたくない人(温泉棟は10時から20時30分まで日帰りの営業がある)

予約前の注意事項

現地ではクレジットカードが使えない(じゃらんの基本情報)。一人で出る部屋はどちらも「※バスなし」で、ドライヤーとバスタオルは置いていない(石けんは有料)。チェックインは15時から、チェックアウトは10時まで。桑畑から竹田駅前へ行くバスは平日6便・土日祝2便で、朝は8時36分の次が13時36分である。10時に出ると次の便まで三時間半以上ある。温泉棟は10時から20時30分まで日帰りの営業がある。貸切の家族風呂は宿泊者は無料だが1回50分以内。二食付のプランは日によって一覧に出ない(2026-11-12と2026-12-09はどちらも出なかった)。料金は読むたびに動くので、予約の画面で確かめること。

一人の部屋の知らせ

一人で取れる部屋が出たとき、一通お知らせします。
それ以外のメールは届きません。

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