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RECORD № 049

見られない湯で、自分に聞く

評価の圏外で、自分の容量に合った暮らしを決めること

経歴と容姿で値踏みされ続けてきた。いまは付き合いを絞り、年賀状を五枚だけ書く。紅葉は撮らない。「憶えていられる分だけで足りる」と言う。少なさを欠乏ではなく設計として生きている人。

志乃という語り手について →

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屋号なし

屋号を手放して、半年が過ぎた。名刺は、まだ刷っていない。刷らない理由を、以前は考えていた。今はもう考えない。ただ刷っていない。

先週、新しいクライアントとの打ち合わせで、「お若く見えるので若い感性のデザインが得意そうですね」と言われた。悪気はないのだろう。ないのだろうが、実績でも仕事内容でもなく、見た目から判断された言葉だった。「わたし」の一人称で、それだけ言った。「ありがとうございます」とは言わなかった。

町家を改装した京都の宿を見つけた。共同の大浴場がなく、全室に檜風呂があるという。誰かと湯船で顔を合わせる必要がない。一人で予約できるかどうかは、サイト上に明記がなかった。宿に直接電話をかけた。

東山

新幹線で二時間十五分。京都駅から市バスに乗り、東山安井で降りた。徒歩四分。産寧坂の方向から観光客の声が聞こえたが、下河原通に入ると急に静かになった。

画像はイメージです

町家の間口は狭かった。狭い間口の奥に、部屋数分の静けさが積み重なっているように見えた。

ゆとね

電話で確認した通り、一人での宿泊は問題なく通った。案内された部屋には、檜の風呂があった。共同の大浴場を探して館内を歩く必要がない、というのは、思っていたより気が楽だった。

廊下で、着物姿ではない男とすれ違った。所作に慣れた歩き方だった。京都に住み慣れているのか、それとも何度も来ている客なのか、判断がつかなかった。判断する必要もなかった。手には黒っぽい手帳があった。

画像はイメージです

檜の風呂に湯を張った。木の匂いが強かった。値踏みされる場面を、湯に浸かりながら思い出した。思い出しても、湯の温度は変わらなかった。

京会席

夕食は京会席だった。旬の野菜と湯葉が中心だった。品数は多くなかったが、一つ一つに手間が見えた。

食べながら、屋号のことをまた考えた。屋号がないことを、まだ誰にも聞かれていない。聞かれたら、どう答えるかを決めていない。決めていないことに、以前ほど不安を感じなかった。

聞いてみる

朝、もう一度檜の風呂に入った。夜より木の香りが薄く感じた。

十一時前に発って、京都駅まで戻り、新幹線で東京へ戻った。

車内で、名刺のことを考えた。屋号を決めて刷るか、屋号のないまま刷るか。どちらでもいい、と思いかけて、思うだけでは決まらないと気づいた。決まらないなら、今回のように、聞いてみればいい。聞いてみないと分からないことを、今回はわたしが直接聞いた。

可否は、聞いてみないと分からない。分からないことを、今回はわたしが直接聞いた。

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Field Notes

京小宿・八坂 ゆとね

Overview

京都府
Region
京都府京都市東山区(下河原通高台寺下ル)
Access
京都駅から市バス206系統(東山経由)で「東山安井」下車、徒歩4分。またはタクシーで約15分
Price
中価格帯(1泊2食1名32,300円〜35,620円。季節限定プランは62,560円〜に達する場合あり)

Facility

Room
京町家を改装した全7室。各室に檜風呂を完備。部屋によりツイン/ダブル/和室系
Meal
夕食は京の旬野菜・豆腐・湯葉などを用いた京会席(季節で内容が変わる)。朝食は和朝食

宿タイプ

  • 町家改装の宿
  • 全室に個別浴室
  • 小規模宿

向いている人間

  • 共同の大浴場ではなく、客室内で一人静かに湯に浸かりたい人
  • 町家建築の狭い間口・小規模な構造そのものに落ち着きを感じる人

向いていない人間

  • 大浴場や温泉そのものを目的にしている人(客室檜風呂のみ、温泉ではない)
  • 車で訪れたい人(専用駐車場なし)

予約前の注意事項

駐車場なし。夕食付きプランのチェックインは14:00〜19:00など、プランにより時間帯が異なる。一人利用時の正確な料金体系・可否は予約前に宿へ直接確認が必要。