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「今日は、誰にも事情を話したくない。」
誰にも説明したくない日に
聞かれたことにひと言だけ返して、その先を足さずにいる日に読む話を並べています。
並んでいるのは、実在の宿を舞台にした連載小説です。語り手は実在しません。
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聞かれたことに、ひと言だけ返して、その先は足さない。足すと、こんどはその理由が妥当かどうかの話になるからです。そういう日は、いっそ誰も事情を知らない土地まで行って、何をしている人かを聞かれない一晩を過ごしてみませんか。ここに並べたのは、説明しないまま出かけた七つの話です。

志乃フリーランスデザイナーたとえば、フリーランスのデザイナーの志乃は、長く使った屋号を手放して、名乗り方だけがありません。フリーランスの、と言いかけて止まる一秒が、いちばん疲れます。その晩は、縁の白い器を、その白さの理由を聞かずに眺めます。

有希会社員でも、説明したくない相手が、悪気のある人とは限りません。会社員の有希は、写真を見せられればちゃんと見て、ちゃんと返します。その晩は、玄関で子どものことを聞かれ、いません、とだけ答えて、そのあとの間を埋めません。

有希会社員同じ有希にも、答えたくない問いはひとつではありません。これで一段落ね、と言われて、そうですね、と答えました。始まらない次の段落のことは、言いません。泊まった晩は、木の向こうの灯りが消えるまで、そこを動きません。

志乃フリーランスデザイナーもう少し先まで行くと、説明しない人が、自分から聞く場面もあります。同じ志乃が、見た目だけで仕事を決めつけられた週のことです。一人で泊まれるかは書いていなかったので、自分で電話をかけて聞きました。
ほかに、有希の話があと三つあります。どれも同じ人の、別の日です。返す言葉の見つからない一行を受け取って、答えないまま一晩を過ごす話が並びます。
『名前をつけない庭』有希 『説明はしない、と決める』有希 『桑の木』有希今夜の一話
志乃 — フリーランスデザイナー 移された家の、二度目の場所 屋号を手放したばかりの女が、名乗り方だけを持たないまま、水の入っていない田の中の道を歩いて、宿へ着く晩である。 説明しないと決めた人が、それでも名乗らなければならない場面をどう通るかの話で、前の話を読んでいなくても分かります。止まるたび、相手が少し待つ。この一話を読む
舞台になった宿
『移された家の、二度目の場所』の舞台は、湯宿 草菴。
PR 湯宿 草菴の空室を見る じゃらんnet (外部サイトが新しいタブで開きます)そのほかの話
この頁に五つある有希の話は、人物録の有希の頁から続けて読めます。
この状態に、ひとつ
「ひとり旅」という名前のプランを持っている宿なら、一人なのですが、と電話で切り出さずに予約が終わります。
『一人です、と言わずに済む宿』