宿と小説の読みもの、余白
RECORD № 091

介護が終わったこと

計測をやめられない人間の、漸進的な手放し方

会社を立ち上げて、燃え尽きて、いま手放そうとしている。睡眠も、心拍も、生産性も、十年以上測ってきた。測るのをやめる方法が分からない。少しずつ手を離す以外に、思いつかない。

大輔という語り手について →

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一段落

妻の親の介護が、去年終わった。終わってから、何をすればいいのか、しばらく二人とも分からなかった。予定という予定を、長いあいだ、介護の都合で決めていた。決める都合が、なくなった。

何も決めずに泊まれる宿にしよう、と妻が言った。僕は、いいね、と答えた。答えてから、宿の候補を三つ選んで、それぞれの送迎の時刻を表にしていた自分に気づいた。

三便

西武秩父駅に着いて、送迎の時刻を確かめた。十五時、十六時、十七時。僕は迷わず十五時の便にした。迷わなかったことに、妻が、早いね、と言った。

駅前のベンチで、同じ送迎を待つらしい客が一人、荷物も持たずに座っていた。時計は見ず、ただ通りを眺めていた。

早く着いて、何をするか決めていなかった。決めていないことに、僕は落ち着かなかった。落ち着かないことを、妻には言わなかった。

画像はイメージです

三タイプ

部屋は三タイプあると聞いていた。妻が、露天風呂付きでいい、と決めた。僕は、その決め方の速さに、少し驚いた。介護のあいだ、妻はいつも即断していた。速さは、そのころの癖のままなのかもしれない。

夕食は部屋に来た。品数を、僕は数えなかった。数えなかったことを、自分で確かめて、また数えそうになった。

画像はイメージです

予定を詰めない練習

湯に入って、窓の外を見た。何も予定がない、という状態に、僕はまだ慣れていない。慣れていないことを、妻に言った。

「わたしも」と妻が言った。「介護の予定がなくなって、空いたところに、また予定を入れたくなる」

予定を詰めない練習を、僕らはまだしていない。していないことに、今日、気づいただけである。

送迎バス

翌朝、九時五十分の送迎バスに乗った。十一時の便もあったが、早いほうを選んだ。早く選んだ理由を、妻には言わなかった。妻も聞かなかった。

駅に着いて、次はどこへ行くか、妻が聞いた。僕は、決めていない、と答えた。決めていない、と言えたことに、少しだけ、進んだ気がした。

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Field Notes

秩父七湯「御代の湯」 新木鉱泉旅館

Overview

埼玉県
Region
埼玉県秩父市(秩父七湯)
Access
西武秩父駅からタクシー約10分。予約制の無料送迎あり(西武秩父駅15:00/16:00/17:00発)。帰りは宿発9:50/11:00
Price
予約サイトで確かめた一万円台半ば〜(1名1室・夕朝食付) 2名1室での実測一万円台半ば〜(2名1室の1名分・夕朝食付) 公開の情報から中価格帯(夕朝食付2名1室で1名あたり税込一万円台半ば〜)

Facility

Room
和室12室。8畳(バス・トイレなし)/12畳(バス・トイレ付)/12畳(露天風呂付)の3タイプ
Meal
夕朝食付・朝食付・素泊まりの各プランがあり、体調や予定に合わせて選べる

宿タイプ

  • 温泉旅館
  • 老舗宿
  • 山間の宿

向いている人間

  • 介護が一段落し、予定を詰めずに過ごしたい夫婦
  • 到着や食事の時間に融通が利く宿を求める人
  • 体調に合わせて滞在の重さを調整したい人

向いていない人間

  • 到着と出発の時刻を自由に決めたい人(送迎は往路3便・復路2便の定時制)
  • 源泉かけ流しにこだわる人(冷鉱泉を加温)
  • 大浴場での交流を求める人

予約前の注意事項

湯は循環ろ過で、源泉は約15℃の冷鉱泉を加温して使う。貸切風呂は宿泊者限定・50分1,890円の有料。送迎は予約制で、利用は30分前までに電話が要る。料金は変動する。

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