宿と小説の読みもの、余白
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どれを取っても離れなら、迷わなくていい。

その「迷わなくていい」の中身から、話を始めます。離れのある宿、という言葉で探しはじめた人は、写真の良さそうな一軒を見つけて、日付を入れ、人数を入れ、部屋タイプの欄はいちばん上に出てきたまま触らずに送信して、それで決まったつもりになります。

決まっていません。

本館の部屋が一室でも残っていれば、そちらに通されることがあります。離れに泊まれるかどうかを決めているのは、宿の名前ではありません。部屋の名前です。

「離れ」と書かれている

予約ページに、離れという語がそのまま使われている四軒です。

はなれ宿 善積は全6室、小天狗さんろじは全8室で各室に専用の露天風呂と庭が付き、忘れの里 雅叙苑は古民家を移築した離れ家形式の全8室、季さら別邸 刻は全10室が離れ棟です。

ここに並ぶ六軒には、その部屋の名前が一種類しかありません。予約ページの部屋タイプ一覧を上から下まで読んでも本館の部屋が一つも出てこないので、どの行を選んでも、渡される鍵の先にあるのは独立した棟になります。選び間違えようがない、という一点だけで束ねた六軒です。

全室が離れの宿を選ぶと、予約の前に一つ決まります。部屋タイプの欄で何を押しても、通される先が本館から離れた棟になる、ということです。廊下を歩く回数も、膳を運ぶ人が通る道も、そこで決まっています。価格帯にも地域にも評点にも、この一行は出てきません。出ているのは部屋タイプ一覧の中身のほうで、本館の部屋が一つも無いかどうかは、そこを最後まで読まないと分かりません。

六軒しかありません。八軒に足りませんが、埋め合わせません。本館の部屋を持たない宿を数えると、この数になります。

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分けたのは、予約ページで棟が何と呼ばれているかです。呼び方が違うのは造りが違うからか、書き手が違うからか、そこまでは書かれていません。

棟は独立しているが、「離れ」とは書かれていない

本館の部屋はありません。ただし予約ページが使っている語は離れではなく、コテージ型と、離れ風の造りです。

向かないとき

棟が独立しているということは、棟のあいだを歩くということでもあります。山荘 天の里は約6000坪の敷地に4棟が間隔を空けて建っているので、食事に呼ばれるたび、湯へ向かうたびに履物を履いて外へ出ることになり、雨の日はそのたびに傘を差して棟から棟へ渡ることになります。

遠い宿が多くあります。小天狗さんろじへは東京から新幹線と在来線とタクシーを乗り継いで五時間ほどかかり、乗り換えのたびに荷物を提げ直すことになります。12歳未満は泊まれないので、小さい子を連れる旅では選べません。忘れの里 雅叙苑は空路で鹿児島へ出て、空港のインターチェンジから車で約15分の妙見温泉にあります。

大正屋 椎葉山荘について、宿の案内が使っている語は「離れ風の造り」です。離れとは書かれていません。棟が完全に独立していることを条件にするなら、予約の前に宿へ電話をかけて、そこだけを聞くことになるので、こちらが離れと言い換えてしまうと、聞く先そのものが消えます。

秘境 白川源泉 山荘 竹ふえは、この六軒に入れていません。案内には全12室が離れとして点在するとあるのに、部屋の内訳のほうは露天風呂付離れ和室8室と本館和室4室になっていて、二つが食い違っています。全室が離れとしては扱いません。

本館のある宿では、離れは指定しないと泊まれません。離れが数室しかない宿で部屋タイプを選ばずに予約すれば、玄関で鍵を渡されたあとに通されるのは本館の部屋のほうであり、この六軒はそれに当たりませんが、離れのある宿を広く探すときには当たります。

料金も部屋の構成も変わります。ここに並ぶのは掲載ページと調査記録に書かれていたもので、現地で違っていることはあります。

全室が離れでない宿にも離れはあります。本館のある宿で指定して取るなら離れを、指定して取る宿、語そのものの使い分けを見るなら「離れ」と呼ばれているものがあります。

確かめずに済むこと

棟の数は数えられます。敷地の坪数も、駅からの分数も数えられます。

数えられないのは、鍵を受け取って荷物を提げ、砂利を踏んで戸の前に立つまでのあいだに、部屋の名前をもう一度確かめ直す、その数秒のほうです。六軒では、それが起きません。起きなかったことは、あとになっても思い出せません。

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