宿と小説の読みもの、余白
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棟の来歴は、移築・再生・再現・近年の建築に分かれる。本館の部屋を、そもそも持たない宿が二軒ある。

分ける物差しは、その棟が何からできているかです。どこかから解いて運んできた棟(移築)と、その場所で建て直した棟(再生)と、昔の形をたどって新しく建てた棟(再現)と、近年の建築を、同じ「離れ」の語で束ねずに分けました。離れ、と聞いて思い浮かぶ絵が、たいてい一つあります。太い柱があって、天井が低く、磨かれた縁の先に踏み石が並び、障子の向こうが庭になっている、古い家の絵です。棟の来歴は、価格帯の欄にも、地域の欄にも、評点の欄にも出てきません。部屋の説明を読むまで分かりません。

離れは、古さの名前ではありません。棟が独立していることの名前です。

番号をつけて、外す

移築は、ただ運ぶことではありません。柱や梁を一本ずつ解体し、どこの何番かを記録して、別の土地で同じ順序に組み直します。

寸法は記録できます。継手の位置も記録できます。記録できないものもあります。煤で黒くなった梁の色、長年、手で触られてできた柱の艶。それらは仕様書に書けないまま、建物とともに運ばれます。

番号をつけて外し、運んで、組み直す。それでも、同じ家と呼ばれます。

古民家からできた棟

古民家を移してきた棟と、古民家を建て直した棟が入ります。忘れの里 雅叙苑は古民家を移築した離れ家形式の全8室、湯宿 草菴の離れ客室は天保・庄屋・明治の三室、高志の宿 高島屋の離れ「竹亭」も移築した棟です。どちらであるかは、宿ごとの一文に書きました。

同じ語の下に、どこかの村から解いて運んできた古民家の棟と、2021年に開いた棟が並びます。どちらも離れです。どちらが良いという話ではなく、泊まる前に分かるかどうかの話です。

棟の造りから選ぶと、泊まる建物が何でできているかが、着く前に決まります。どこかの村から解いて運んできた梁を見上げて眠る夜になるのか、2021年に開いた部屋の平らな天井を見る夜になるのか、ということです。離れという語だけでは、そこは決まりません。価格帯も、地域も、評点も、棟の来歴までは教えません。

八軒は、棟が何からできているかが予約ページか調査記録に書かれている宿です。

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分けたのは、その来歴です。移築と再生と再現は、予約ページでは別の語で書かれています。ここでも束ねません。

造り直した棟と、新しく建てた棟

古民家そのものではありません。再現した造りと、近年の建築です。

その宿の普請そのもの

どこかから移してきたものではありません。石葉の数寄屋造りの和室8室も、旅館花屋の木造建築も、どこかの土地から運ばれてきたのではなく、その宿のために建てられ、いまもその場所に建ち続けています。旅館花屋は約6,500坪の敷地に建物が点在し、その約8割が登録有形文化財です。

向かないとき

離れは、指定しないと泊まれない宿があります。八軒のうち六軒には本館の部屋があり、そこでは離れの棟の名前を選ばないかぎり、鍵を渡されるのは本館のほうであって、本館の部屋を持たないのは忘れの里 雅叙苑と山荘 天の里の二軒です。旅館國崎の「やまぼうし」を使う会席プランは2名以上限定で、一人では取れません。

神話が息づく出雲ノ国 古代ロマンの宿 松園の離れは、古代の住居を「再現」した造りです。移築した古民家ではありません。その棟で見上げることになる形は、昔の住まいの形をたどって新しく建てられたものであって、どこかの村から解いて運ばれてきた材ではありません。移築と再生と再現を、同じ言葉で束ねません。

古い造りが良い、という話にはしません。山荘 天の里の棟は近年の建築であり、古い建物であることを条件にして選ぶなら、この八軒のうちこの一軒は当たらない、というだけです。

棟の造りが分かることと、離れの室数が分かることは別です。石葉は全8室が本館と離れに分かれるというところまでで、離れが何室かは書かれておらず、旅館花屋のほうも、離れの室数は確認できていません。

高志の宿 高島屋は、同じ宿のなかで棟の来歴が違います。移築されているのは離れ「竹亭」のほうで、本館は江戸時代の庄屋屋敷そのものを使っており、280年の歴史を持つ国の登録有形文化財になっています。ひとつの屋号の下に、運ばれてきた棟と、建った場所から動いていない棟が並んでいます。

料金も部屋の構成も変わります。ここに並ぶのは掲載ページと調査記録に書かれていたもので、現地で違っていることはあります。

造りではなく、棟の取り方で選ぶこともできます。全室が離れの宿ならどの部屋を取っても、離れになる宿、本館のある宿で指定するなら離れを、指定して取る宿があります。

元の場所

移された棟には、建っていた場所が別にあります。

誰が住んでいた家だったのかは、部屋の説明に書かれていません。移築、とだけ書かれています。その一語の向こうには、屋根を下ろした日と、材を積んで運んだ道と、それを建て直した人がいるはずですが、そこまでは予約ページにも調査記録にも残っていません。数えられるのは、築年数のほうだけです。

泊まる者は、それを知らないまま、その屋根の下で眠ります。

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