宿と小説の読みもの、余白
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客室に露天風呂があれば、温泉だと思ってしまう。

その思い込みの手前に、もう一つ思い込みがあります。古い宿に泊まると決めたとき、湯は共同のものだと思っています。長い廊下を歩いて大浴場へ行き、上がってまた同じ廊下を歩いて戻る。建物が古いのだから、そういう造りだろう、と。

年代は、宿にひとつではありません。

屋号の年齢と、部屋の年齢は、別々に進みます。皆美館は明治21年の創業ですが、露天風呂とサウナの付く新客室が開いたのは2024年7月で、同じ玄関をくぐった客が、百三十年ぶんの差がある部屋へ左右に分かれていきます。

創業年が書かれている

いつ始まった宿かが、年で出ています。創業年の古い順に並べました。

越前あわら温泉 つるやの本館は平田雅哉の設計施工による数寄屋建築で、旅館花屋は大正6年の創業以来ずっと宮大工の普請を重ね、約6,500坪の敷地に木造建築約1,500坪を点在させています。

古い建物で部屋の湯を取ると、一晩の動きが二つ決まります。夜中に湯へ行くのに廊下を歩かなくてよくなることと、朝いちばんに障子を開けたときに見えるのが何年の建物になるかが、宿の名前ではなく部屋の名前で決まることです。創業年は一覧に出ますが、自分が寝る棟の年は出ません。価格帯にも評点にも、その差は現れません。

八軒は、創業年か建物の来歴が予約ページに書かれていて、なおかつ客室に湯がある宿です。

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分けたのは、予約ページに建物の何が書いてあるかです。古さの度合いで並べていないのは、比べられる数字が創業年しかないからです。

建物の来歴が書かれている

創業年ではなく、建物そのものの出どころが書かれています。Onsen & Garden 七菜は築200年の古民家を使った全3室、湯宿 草菴の離れ客室は古民家を再生した天保・庄屋・明治の三室で、食事のほうは築111年の移築古民家を使ったレストランで供されます。

向かないとき

「露天風呂付き客室」と「温泉」は、別のことです。部屋に湯が付くという記載は、その湯が温泉だとまでは言っていません。皆美館の温泉付きツイン、旅館花屋の源泉かけ流し内湯付き和室、大和屋別荘の温泉内風呂付客室には温泉だという明記がありますが、越前あわら温泉 つるやと湯宿 草菴は客室露天風呂付きの部屋があるというところまでで、その湯が温泉かどうかは確認できていません。建物が古いことは、この判断の材料になりません。

客室の湯がかけ流しとも限りません。皆美館の客室露天風呂は加水で、宿の案内には、かけ流しではないと書いてあり、大和屋別荘のほうには、かけ流しかどうかの記載がそもそもありません。時音の宿 湯主一條は露天が加温で、源泉かけ流しなのは大浴場と貸切風呂のほうなので、そのまま流れている湯に手を入れたい夜は、部屋の戸を閉めて廊下を歩くことになります。

時音の宿 湯主一條で登録有形文化財に当たるのは個室料亭であり、指定の内容と指定を受けた年は書かれていないので、宿の全体が文化財だとは書きません。

Onsen & Garden 七菜は全3室で、湯は客室付きの露天風呂か貸切のどちらかであり、誰とも湯船を分け合わないかわりに、大きな湯で手足を伸ばしたい日には向きません。

料金も設備も変わります。ここに並ぶのは掲載ページと調査記録に書かれていたもので、現地で違っていることはあります。

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古さを外すと、一覧は広がります。全室に湯がある宿ならどの部屋にも、湯がある宿、棟の造りのほうから選ぶなら棟の造りから、選ぶ宿があります。

年表と、一晩

創業年は数えられます。築何年かも、指定を受けた年も数えられます。

数えられないのは、その建物が何度直されたかです。古い建物は直しながら使われるものですが、どの柱を替え、どの床を張り直し、どの窓を新しい硝子にしたかは、部屋の説明のどこにも書かれていません。

年表は、宿の側にあります。泊まる夜は一晩しかなく、その一晩に残るのは、ドーム天井とステンドグラスの下にある旅館花屋の大理石風呂と、伊豆石で組まれた隣の若草風呂の、どちらの縁に肘を置いたかです。

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