宿と小説の読みもの、余白
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石けんもシャンプーも、持って行かなくていいと思っていないか。

鞄に入れる道具の話から先にします。宿の良し悪しを、置いてあるものの数で測る癖が、いつのまにかついています。シャンプーがあり、ドライヤーがあり、歯ブラシが小さな袋に入って洗面台の隅に並んでいて、数えられるものは比べられ、比べられるものは点数になります。

八軒は、その数え方の外にあります。

洗い場に何を置くかを決めているのは、いつも宿の側です。置くと決めた宿では客は手ぶらで湯へ行けばよく、置かないと決めた宿では、湯へ行くよりずっと前に、その分だけこちらが決めることになります。

持ち物が増えるのではありません。決める時刻が、前に来ます。鞄を開けるのは、家を出る前です。

洗うものを、持って行く

シャンプーとボディソープが無い六軒です。洗面道具の一式で足ります。

置いていないものは、宿ごとに少しずつずれています。文化財の宿 新井旅館には湯沸しポットも無く、金沢・深谷温泉 元湯石屋にはパジャマも無く、湯宿 草菴には浴衣も無く、法師温泉 長寿館と城崎温泉 三木屋では、くしと髭剃りも置いていません。

一式、という言い方で済ませられるのは、ここまでです。

この軸で選ぶと、決め終わる時刻が予約の前に来ます。価格帯や地域や評点の欄には、洗面台に何が並ぶかは出てきません。置いていないと書いてある宿を選べば、家の洗面所の棚から何を抜いて鞄へ移すかが出発の前に確定して、着いてから足りないものに気づく順序ではなくなります。

理由は書かれていません。湯に足したくないのか、古い建物の造りなのか。予約ページにはどちらも書かれていないので、ここでは推測しません。

分けたのは、持って行くものの量です。

洗うものと、乾かすものを持って行く

上の六軒に加えて、ドライヤーも無い二軒です。

洗面道具一式で足りると考えて来る読者には、この二軒は向きません。会津東山温泉 向瀧には冷蔵庫も無く、湯之元温泉はシャンプー、リンス、ボディソープ、石けん、ドライヤーが予約ページの一覧で揃って×になっています。持って行くものが、鞄の一区画では収まらなくなります。

髪の長い人は、乾くまでの時間を予定に入れることになります。三十分か、一時間か。その時間は、宿にいるあいだの時間です。

湯へ行く前に、決まること

髪まで洗うつもりでいるなら、鞄に入れるものが一つ増えます。売店を置いている宿もありますが、どこで買えてどこで買えないかまでは確認できていないので、着いてから探すことにすると、探す時刻は荷を解いたあとの、いちばん湯へ行きたい時刻と重なります。

洗い場に何も並んでいないことと、湯が新しいことは、別のところで決まっています。城崎温泉 三木屋と金沢・深谷温泉 元湯石屋の案内には、かけ流しではないと書いてあります。石けんを持って行く夜と、湯が新しい夜は、重なることもあれば重ならないこともあって、置かない宿の理由を一つに束ねると、そこが最初にずれます。

石けんは、洗面台の話です。湯の話が始まるのは、湯船の縁に手をかけてからです。

料金も備えも変わります。ここに並ぶのは掲載ページに書かれていたもので、現地で違っていることはあります。

鞄に足すものは、宿によって違います。乾かす道具のほうなら髪が乾くまでを、待つ宿、寝るときの一枚なら浴衣のまま、眠る宿があります。

数えられるもの、数えられないもの

石けんの有無は数えられます。

数えたところで、その湯がどうだったかは分かりません。分かるのは、洗い場の低い椅子に腰を下ろし、持って来た石けんを湯で濡らし、掌のあいだで泡が立ちはじめるのを見たときだけです。

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泡は湯に流れて、板の目地に沿って落ちていきます。あとに残るのは、角の丸くなった石けんが一つです。

鞄に入るものは、家で決められます。入らないものは、着いてからでないと決まりません。

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