宿と小説の読みもの、余白
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夕食の膳が、部屋か館内の個室で出る。紅葉は、見に行かなくていい。

分ける物差しは、日が落ちてから門の外に出る用があるかどうかです。夕食の膳が部屋か館内の個室で出る宿と、庭や建物そのものが門の内側にある宿に分けました。四時を過ぎると外は暗く、出かける理由がなくなります。夏なら宿の外にあった時間が、秋は宿の中へ戻ってきます。膳がどこで出るかは、価格帯の欄にも、地域の欄にも、評点の欄にも出てきません。食事の欄を開くまで分かりません。

秋の宿は、紅葉という言葉で説明されます。見に行く、という目的がつきます。八軒には、その目的がありません。決まるのは、見るものがあるかどうかではなく、日が落ちてからの五時間を、どこで過ごすことになるかです。門の外に用があると、暗くなってから一度出て、戻ってくることになります。門の内側で食事と湯が済む宿では、その往復が最初からありません。

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門の内側で、食事が済む

部屋か、館内の個室で膳が出ます。外へ食べに出る必要がなく、席を決める必要もありません。

膳が内側にある宿と、庭や建物そのものが内側にある宿では、暗くなってからの過ごし方が違います。門の外に用があると、暗くなってから一度出て、戻ってくることになります。

門の内側に、見るものがある

皆美館は宍道湖を臨む日本庭園を持ち、時音の宿 湯主一條は登録有形文化財の建物のなかに個室料亭があります。金沢・深谷温泉 元湯石屋は一軒宿で、館内に大正時代の能舞台と宮大工の書院があります。名泉鍵湯 奥津荘は本館が登録有形文化財で、湯船の足元から源泉が湧きます。

見るものが門の内側にあると、暗くなっても見終わりません。

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九月と十一月では、同じ湯でも違う

冷えた体で入る湯は、長く残ります。同じ宿の同じ湯でも、九月と十一月では上がったあとの時間が違います。

名泉鍵湯 奥津荘へ来た大輔の記録は、睡眠スコア六十二という数字から始まります。深い睡眠が四十八分、目標は九十分、達成率五十三パーセント。会社を畳んで十四か月、眠りまで採点している人です。その人が足元から湧く湯に入り、指から外すと、こんなに小さいという一行を残します。湯から上がったあとの時間が長い宿では、数えていたものが手から離れる余地があります。

秋に、確かめておくこと

ひとつ、はっきり書いておきます。紅葉期は、一年でいちばん高くなります。

同じ部屋、同じ食事でも、十月下旬から十一月にかけては他の季節と料金が大きく違う宿があります。静かに過ごしたいだけなら、九月か、紅葉が終わったあとの十一月下旬のほうが条件は良くなることが多くなります。見に行くのでないなら、混む週を外してかまいません。そのほうが、宿の中の時間は長くなります。

到着時刻を決めずに動きたい読者には、名泉鍵湯 奥津荘は向きません。夕食の提供のため十九時までの到着が要り、津山駅からのバスは本数が少なく送迎もありません。日没が早い季節ほど、この締切に間に合わない失敗が起きやすくなります。

金沢・深谷温泉 元湯石屋は会席の提供場所が確認できていません。門の内側で済むかどうかは、予約のときに聞くことになります。

ここに並ぶのは各宿の掲載ページと公式の記載にあった事実で、現地で変わっていることはあります。

同じ「外へ出ない」でも、棟の造りのほうから選ぶなら誰にも会わずに、部屋へ帰れる宿、湯を部屋の側に寄せるならどの部屋にも、湯がある宿があります。

何もしなかった時間

宿の中で何をしていたかを、あとから思い出そうとすると、うまく出てきません。

庭を見ていた。廊下を歩いた。湯から上がって、何もしなかった。書き出すとその程度で、一日ぶんには足りません。

足りないのに、その一日は短くありませんでした。

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